ヤンマガ史上最速でヒット『ねずみの初恋』作者は「読者をどん底に突き落としたい」。殺し屋少女のピュアで残酷な恋物語はどんな結末を迎えるのか?【大瀬戸陸インタビュー】

マンガ

更新日:2024/6/24

 現在、ヤングマガジンで連載中の『ねずみの初恋』は、ヤクザに殺し屋として育てられた少女・ねずみと普通の青年・あお君の初恋を描いた物語。かわいさと残酷さが同居する独特の世界観が人気を呼び、2024年6月6日には待望の第2巻が発売された。

『だくてん』で第78回ちばてつや賞ヤング部門優秀新人賞を受賞しデビューした後、『影霧街』『老人と孫』『ごめんなさい、メシアちゃん』などの話題作を次々と発表してきた大瀬戸陸氏。そんな大瀬戸氏に、勢いに乗る本作のルーツや、今後待ち受ける2人の未来について話を伺った。

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打ち切りを経て「圧倒的に売れたい」と素直に思った

――前作の『影霧街』はエログロの描写がインパクト抜群でした。そこから、純粋な恋愛要素を盛り込んだ『ねずみの初恋』を着想したきっかけを教えてください。

大瀬戸陸(以下、大瀬戸):まず『影霧街』が終わって3カ月ほどは、読み切りを描くことが決まっていました。自分のプライベートでも周囲でも暗い出来事が多く、マイナスな気持ちが溜まっていたので、読み切りでそれを消化しようと思っていたんです。

 体の膿が出て爽やかな気持ちになったら、多くの人に受け入れてもらえる「売れる」作品を描こうと考えて『ねずみの初恋』が生まれました。

ねずみの初恋
ねずみの初恋』(大瀬戸陸/講談社)

――大衆を意識する視点も加わったんですね。心境の変化についても聞かせてください。

大瀬戸:『影霧街』は初連載だったんですが、ヤンマガWebに掲載され始めたのは僕の高校生活が終わる頃でした。その後1年間はフリーターみたいな生活を送っていて。当時は「連載できてラッキーだな」という気持ちが大きく、あまり「こうなりたい」といった野望もありませんでした。

 でも『影霧街』が打ち切りになり色々と見えてきたことで、「突き抜けるくらい売れたい」と素直に思ったんです。やりたいこともどんどん浮かんできたので、自分の芯がブレないように描ければ良いから、変なプライドは全部捨てよう、と。

――腹を括ったんですね。そのひとつの手段としてラブコメ要素を入れたところもあるのでしょうか?

大瀬戸:そこには2つ意図があります。まずは、自分が経験したことが何かしら漫画に入っていないとリアリティがなくなると思っていたから。恋愛だったら自分も考えやすいし、多くの人に共感してもらえると思いました。

 あと、担当編集者が『影霧街』のとき、純愛を描いたシーンを過去一ってくらい褒めてくれたことも関係しています。最初はそのシーンに出てくる女性が、鼻や唇をハサミで切り取られた“スプラッタ的な要素”が原因だと思っていたんですが、改めて見つめ直したら、そんな姿になっても“恋人が純愛を貫く素晴らしさ”がハマったと分かって。じゃあそこに焦点を当てようと決意しました。

影霧街-3巻-P.161

大瀬戸:本作でも、ねずみちゃんとあお君の周りの環境がどんなにひどくなっても、2人の純愛はブレないよう描き切りたい。愛や人間関係のかたちも多様化している現代ですが、読んだみなさんが純粋に、2人の関係性を「良いな」と思える内容を目指しています。

『ねずみの初恋』のストーリーは「ある程度決めている」

ねずみの初恋-1巻-P.109

ねずみの初恋-1巻-P.110

――本作は純愛、ラブコメ要素もありながら、スプラッタ的なシーンも散りばめられていますよね。

大瀬戸:自分的にはその表現はめちゃくちゃ減らして、かなり優しく描いているつもりですが、「怖い」と言われることはやはりあるみたいです(笑)。

――その辺は、読者の反響なども見ながら調整しているのですか。

大瀬戸:ごくたまに見ます。ただ、その声を反映させてることはありません。ストーリーも、構想段階からある程度決めているので、誰かの意見に流されることなくその展開までしっかり持っていくつもりです。

――お話を伺っていると「冷静に振り返る」視点と、それを次に活かす姿勢を常に持っていらっしゃるのかなと思います。本作を描く中で、気づいたことや変化した考えなどもあるのでしょうか。

大瀬戸:あります。構想段階では、もっとラブコメチックになるイメージがありました。でも描き終えて振り返ったり、頭に描いたものをネームに起こしたりすると、割と生々しい恋愛になる傾向にあるんだなと。逆にそれが良いな、とも思っているんですが(笑)。

――構想段階で流れは「ある程度決めている」とおっしゃっていましたが、表現の仕方や、細かな展開みたいなところを後で決めているということでしょうか?

大瀬戸:流れは決まっているけど、どこに視点を当てるかという感覚でしょうか。「ここにクローズアップしなくてもいいだろう」みたいなところにフォーカスすると、他の漫画にない展開や世界観が出るので、その寄り道の仕方を考えている感じです。

 例えばあお君が人殺しの特訓をするシーン。第4話で、「ナイフを使って練習をしよう」となり、第5話ではナイフに慣れるために、あお君がねずみちゃんの首に恐る恐るナイフをあてる。第6話は、ナイフの扱いと体の動きを反復練習するだけなんですよね。

ねずみの初恋-1巻-P.169

大瀬戸:普通だったらこの第4〜6話の展開は1話分にまとめてしまうような内容のはず。でもリアリティを追求すると、これぐらいスローで地味な展開がしっくりくる。こういう変なシーンに話数を割けるのも、この漫画の良いところだと思っています。

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