あばれる君「昔は名声を得たいだけだった」結婚してから変わった仕事との向き合い方とは【インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2024/6/26

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 全力のお笑いを軸に、サバイバル、ポケモンカード、料理などバラエティ豊かな特技で活躍の幅を広げる芸人、あばれる君。このほど刊行された初エッセイには『自分は、家族なしでは生きていけません。』(ポプラ社)というストレートなタイトルがつけられている。家族の存在によって変わったという人生、お笑いへの向き合い方、息子とお笑いの関係などを伺うべく、インタビューを行った。

スケジュールが「ちょっと厳しすぎるんじゃないかって」

――先日行われた本書のサイン会は大盛況だったそうですね。

あばれる君:僕、自分をまんべんなく好かれているタイプだと思っているから、サイン会みたいなイベントに来てくれるファンの方はいないんじゃないかと思っていたんです。でもピンポイントなところを好きだと言ってくれる人たちがたくさん集まってくれました。

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――どんな方たちでしたか。

あばれる君:YouTubeのポケモン対戦生配信もそうだし、独特の言葉遊びやネタが好きですって言ってくれる人がいましたね。そういう人たちと直接会う機会はなかなかないので、普段はどこに隠れていたんだろうと。家族連れの方も多くて幸せな時間でした。

――今回の本は家族が大きなテーマです。書き下ろしのエッセイにすることはご自身で決めたんですか?

あばれる君:小説にも憧れがあって、人生で1回だけ挑戦したんですけど、ちょっと難しすぎました、自分には。だから、もし自分が本を書くならエッセイだなと思っていたんです。クスッと笑えて心がほっこりするようなものを。

――これまでに、そういうほっこりしたエッセイに出会ってきたと。

あばれる君:そうなんですよ。けっこう読んでいるんです。椎名誠さんとか、(バナナマンのラジオの放送作家などを手がける)オークラさんとか。

――日頃の癒しを考えたときに家族の存在が大きかった、ということですが、家族の大切さが伝わるタイトルですね。

あばれる君:みんなそうでしょうけどね。だから、僕がこんなふうに大々的に言うのも恥ずかしいんですけど、日頃考えていることじゃないとエッセイのお題なんてすぐに尽きますよね。そうなってくると、家族は毎日一緒にいて、毎日変化がありますし、話題に事欠かないんじゃないかなって。いや~でも後半は苦しみました。

――産みの苦しみがあったのですね…。どんなふうに後半を乗り越えましたか。

あばれる君:やる気ですね。普段のネタ作りにしても、後回しにして後悔することが多かったんで。締め切りをしっかり頭に入れて進めました。当たり前のことですけど。

――素晴らしいです。それがなかなかできないものなので…。

あばれる君:でもだんだんスケジュールが厳しくなっていって、2週間で10本エッセイを書かなきゃいけないっていうことがあったんですよ!(笑)最初は「1ヶ月に4本のペースでいきましょう」と言われていたのが、年明けからいきなり2週間で10本に変わっちゃって。提出していたエッセイもいくつか削られちゃって…。ちょっとおかしいんじゃないですか!って僕言ったんですけど(笑)。でもこんなに楽しいんだって思いましたね。こういうデザインにしましょうとか、こういう文章でいきましょうとか、そういうやり取りをするのは。

――じゃあ本が発売された今ではスッキリと…。

あばれる君:はい。もう全国のどこへでも羽ばたいてくれと思っています。

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息子への教えは「先生にチクらない」

――本書を読んでいると、お子さんからとても慕われていることを感じました。普段はお子さんたちとどんなふうにコミュニケーションをとっていますか?

あばれる君:息子との時間を生活の中でいちばん優先していますね。昨日も朝5時に起きて、6時半から8時半まで息子の野球の練習に付き添いました。その後、10時半から公式戦でコーチとしてベンチに入って、息子の応援をして…。午後は仕事でイベントに出ました。野球って朝早いんで、息子と一緒に行けちゃうんですよ。自分さえ早起きできれば。

――家族にあわせて生活のリズムが変わったとも書かれていました。じゃあ、週末は家族の用事と仕事を同時にこなしているんですね。

あばれる君:家庭と仕事が両方混在していると充実感もありますね。昨日は仕事が午後からだったので運が良かったです。地方に移動する仕事だと、そうはいかないので。

――YouTubeの「父子で大雨サバイバル」に長男さんが登場されていますけど、お父さんの背中を見ながらちゃんと自分の仕事をこなしています。こういうのって、なかなか簡単じゃないと思うんです。

あばれる君:食器をきれいにするとか、キャンプに関しては僕が教えましたからね。ちゃんと覚えてくれてありがたいです。小学校に入ってからはキャンプより野球が多くなっちゃいましたけど。

――息子さんの「躾」もご自身で?

あばれる君:挨拶するとか、弱い者の立場に立つとか、基本的なことは教えました。あとは、先生にチクらないこと。秘密を守るっていう意味でね。もちろん悪いことを注意するのはいいんですけれども。野球での礼儀はまわりのパパたちが教えてくれています。

――野球に関しては、ご自身も子どもの頃に経験されていて、いろいろ伝えられることがありそうです。

あばれる君:「自分の気持ちを立て直すのは自分だよ」とはよく息子に言っています。機嫌が悪いまま勝負しても、いい結果にはならないんですよ。だから、一球一球気持ちを切り替えなきゃいけない。あとはちゃんと真剣勝負をしようねとか。「ありがとうございました」「お願いします」っていう基本的な挨拶をしようねとか。

――お話を聞いていると、ご自身が普段やられていることばかりなのかなと。

あばれる君:いやいや、僕なんて全然、まだまだです。でも、僕も芸人として心がけていることではありますね。

――小学2年生の男の子だと、そろそろ反抗的な一面も出てきそうですが。

あばれる君:それはまだそんなにないですね…。ただ、それなりの挑発はしてきますよ。「やめろ!」って言った声真似をずっとやってくるとか。「変な顔やめなさい」って言ったのに、僕の真後ろでずっと変な顔しているとか。たぶん、そういうので、どこまで大丈夫なのかを試しているんでしょうね。僕を挑発することで自分の存在を確かめるというか。

――挑発にはどんなふうに対応しているんですか。

あばれる君:強く抱きしめたりとか、ねじ伏せたりとか。ちゃんとやわらかいカーペットのところに運んで、ねじ伏せています(笑)。

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窮地に陥ったときに誰かを笑わせられる、お笑いは最強

――先ほどの「父子で大雨サバイバル」の動画の中で、あばれる君がレモンを自分の目に垂らして悶絶するリアクションに息子さんがまったく動じない…っていう場面がありましたよね。息子さんは普段から、お笑いの洗礼を浴びているのでは?

あばれる君:まあ、そうですね。僕の会話の端々に何かしら、お笑いのエキスは出ていると思いますね。でも、変な大人には育てたくないですから、できるかぎり立派な大人としての会話を心がけています。あの場面、みんな不思議だって言うんですけど、うちでは全然不思議じゃないですね。

――よくある普通の風景ですか?

あばれる君:そこまでではないですけど。あれ、じつは子どもも我慢できなくて笑っているんですよ。

――そういえば体が震えていたような…。

あばれる君:そうそう。笑っているけど、がんばって後ろを振り返らないっていう。かわいいですよね。

――おうちの中でもおもしろいお父さんなんでしょうか。

あばれる君:どっちかというと、僕は家では無口です、子どものほうがものすごくふざけていますね。だからどんなやつに育っていくのか楽しみです。

やっぱり最強ですからね、お笑いは。窮地に陥ったときに誰かを笑わせられるっていうのは、すごく強いと思うんです。僕自身も普段痛感していることだし、そこは僕から学んでほしいですね。

――本の中のエピソードで思い出すのが、キックボードに乗っていた息子さんにすごい勢いでクラクションを鳴らしたおじさんに対して「そのおじさんは、時空を超えてきた交通ルール戦隊かも」と息子さんに伝えた、というお話。悲しかったことをユーモアのあるたとえ話に変えて教えてくれるお父さんはすばらしいなと思いました。

あばれる君:自分の子どものことだから、クラクションを鳴らした車に腹立ちましたよ。でも、YouTubeの名言集みたいなので見たんですけど、腹立つ気持ちをずっと持っていると、焼けた石を抱えているのと同じなんですって。だから、手放す。手放すとラクになるから、ああやって発想したんです。

――すごく鳴らされたそうですね。

あばれる君:気持ち悪くなるくらい怖かった、っていう息子の表現もおもしろかった。でも息子にも非があるとは思います。とにかく無事に帰ってきて良かったですけどね。

――お父さんが芸人さんであることを、息子さんは把握しているんでしょうか。

あばれる君:はい。テレビで僕のことも見ていますけど、そんなに意識してないと思いますね。僕の仕事に興味を示さないというか。普通の家庭だと思います。息子もまわりのみんなと一緒で、チョコレートプラネットさんとか、なかやまきんに君さんとか好きですし。

――お父さんがテレビでいじられて、悲しい気持ちになったりしませんか?

あばれる君:それはないっすね。おもしろいものはおもしろいって思うんじゃないですか。でもたしかに、小さい子って見たものをストレートに受け取りますよね…。だから、僕が大喜利に強くなるとかしていじられないようにするしかないですね。まあ、基本的にはこのままでいきたいと思っていますけど。

――息子さんにお仕事の夢を語るようなこともありますか?

あばれる君:仕事というか、将来どうしたいかを話すことはありますね。たとえば、アメリカに住みたいとか、オーストラリアに行きたいとか、家族で話して「いいね」とか言い合います。子どももその会話をずっと覚えていて、「何歳くらいで行くの?」と聞いてきたりして(笑)。

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家族と生きるための仕事が、僕にとっては「攻め」

――若い頃は自分以外に興味がなかったそうですが、家族の存在によってまわりに気を遣えるようになったとか。変わったのはいつ頃からですか?

あばれる君:結婚してからですね。テレビで結婚式を挙げた手前、奥さんを幸せにしないとっていう意地もあったし。昔は名声を得たいだけでしたけど、今は心から、家族とずっと生きていけるようにって思っています。守りに入っているって言われるかもしれませんが、僕にとってはそれが攻めなんです。家族と生きていくためには自分が動かなきゃいけないから、自分でキャンプイベントを打ち出して、全国の子どもたちとふれあいに行くとか。どんどん自分で行動を起こしていく、攻めの姿勢に入っています。

――いろいろアイデアも浮かんでいるわけですね。反対に、家族がいるからこそ、できれば受けたくない…っていう仕事はあるんでしょうか。

あばれる君:辛いものを食べるのは…ちょっと怖いっすよね。若い頃はいけたんですけど、いや、今もまだいけますけど、最後の一口で無茶しなくなっちゃったかもしれないです。いや、でもロケの仕事はやっぱりほしいです。いただいたら全力でやりますんで。

――本の中には、猛牛にぶつかられたロケのエピソードもありましたが、それよりも激辛のほうがきついと。

あばれる君:ま、牛系も怖いですけどね。衝撃がもうすごかったですから。体が宙に浮いちゃって。映像で見てもぼくの体グルグル回っていますからね。子どもが見たら不安になっちゃうかも。

――そんなハードなロケを次々とこなしながらも、どんどん進化されて、今は本当に売れていると思うんです。売れる芸人に必要なことって、何だと思われますか。

あばれる君:いや~、僕なんかはまだまだで。でも、売れるのとおもしろいのってちょっと違いますよね。どちらもある人はすごいと思います。僕が言えるとするなら、1日1日を大事にして変わろうとすることじゃないですか。失敗するたびに直していく、修正力。僕も台本で言い間違えたら、すぐに修正します。

――最後に、家族と仲良く暮らすための秘訣を教えてください。

あばれる君:うちは奥さんがありがたいからなぁ。「奥さんのいいところをずっと探す」かな。いや、ちょっと子どもっぽいですよね。一言でズバッと言いたいので、ちょっと待ってくださいね。

 …「台所を大切に」にしましょう。台所ってエネルギーの源じゃないですか。おいしい料理を作って、それが胃袋に入って、そこからみんな仕事や学校で散り散りになって。で、またおいしい料理を食べるためにぎゅっと戻ってくる。ご飯はできる限り家族一緒に食べるようにしています。

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取材・文=吉田あき、撮影=金澤正平

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