ノーベル文学賞受賞作のコミカライズ版『チェルノブイリの祈り』最新2巻、史上最悪の原発事故はどれだけの悲しみを生んだのか?
公開日:2024/6/28
1986年4月に旧ソ連ウクライナ共和国で起きた原発史上最悪の事故「チェルノブイリ原発事故」。その被害者たちの声を取り上げたノンフィクション漫画『チェルノブイリの祈り』の最新2巻が、2024年6月28日(金)に発売される。
原作となった『チェルノブイリの祈り 未来の物語』は、『戦争は女の顔をしていない』などの著者で、ノーベル文学賞受賞者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィチが執筆したドキュメンタリー作品。その内容は“原発事故”という未曾有の惨事に巻き込まれた被災者や、遺族へのインタビューをもとに構成されている。そんな同書を原発事故研究のスペシャリスト・今中哲二ら監修のもと、漫画家・熊谷雄太の手によってコミカライズ化された作品が『チェルノブイリの祈り』だ。
2024年2月29日に発売されたコミックス第1巻では、「孤独な人間の声」「プリピャチからの移住者」「兵士たちの合唱」「ドアに記された人生まるごと」「古い預言」の全5話を収録。エピソードごとに主人公が異なり、たとえば第1話「孤独な人間の声」では、原発の近くに住んでいた新婚夫婦による愛と苦しみの物語が紡がれていた。
夫婦はそれまで愛に満ちた生活を送り、まもなく2人の間に子供も生まれようとしていたが、1986年に起きた原発事故によって突如幸せな日々を奪われてしまう。消防士だった夫は原発の消火に向かった先で被爆し、病院へ搬送された時にはすでに手の施しようがなかった。
それでも転院先の病院にまで駆けつけ、懸命に側で看病し続ける妻。しかしそうしている間にも夫の細胞はみるみるうちに破壊され、皮膚もぼろぼろになり、会う度に別人のような姿になっていく。あなたの前にいるのはもうご主人じゃない、汚染濃度の高い放射性物質なんですよ――と、看護師から忠告されながらも、夫の側で放射線を浴び続けた彼女は、このあと二重の苦しみを背負うこととなる。
チェルノブイリ原発事故がいかに悲惨な出来事で、どれだけの悲しみを生んだのか。その惨状を被害者たちの苦しみや悲しみとともに描いた同作。今回発売されるコミックス最新2巻にも様々な悲劇が収録されており、その中には汚染された動物たちを殺処分していく猟師の苦悩や葛藤なども描かれている。
もちろん猟師たちも、好きでイヌやネコを殺しているわけではない。立入禁止区域に残されたペットたちの中には人の声めがけて、嬉しそうに走り寄ってくるものもいたが、そうした動物たちを「やつらはただ生きているだけ」「“歩く屍”だ」と自分に言い聞かせながら撃ち殺していくのだ。せめてとどめをささなくても済むように「命中させる練習をしろよ」と指示を出す猟師の姿には、誰もが心を締めつけられるだろう。
原発事故は日本人にとっても決して他人事ではない。人類史に残る悲惨な事故がもたらしたもの、そして“その先”にあったものとは――。ぜひ『チェルノブイリの祈り』を読んで、その答えを確かめてみてほしい。