死の呪いに侵された見習い魔女。余命は一年、助かる手立ては千人分の嬉し涙!?
公開日:2024/7/13
自分にもいつかは死が訪れると、誰もが漠然とわかってはいるはず。けれどもある日突然、余命が一年だと告げられてしまったら、どうなるだろうか。坂氏の『ある魔女が死ぬまで -終わりの言葉と始まりの涙-』(電撃の新文芸/KADOKAWA)は、余命一年を宣告された魔女が自らの運命に抗う、愛と〈涙〉の物語である。
幼い頃に両親を失った見習い魔女のメグは、育ての親である「永年の魔女」ファウストのもとで修業に励んでいた。ところが17歳の誕生日、メグに生まれつきの呪いが発動し、ファウストから余命一年だと告げられる。呪いへの唯一の対処法は、寿命を克服させる「命の種」のもとになる感情の欠片、人が喜んだときに流す嬉し涙を一年で千人分集めることだった。ファウストでさえ百年かかったという難題に、メグはわずかでも生き残る可能性をかけて挑んでいくが――。
物語の舞台は、魔女と人がおだやかに共生する世界のイギリス。魔女たちはパソコンやスマートフォンなどの文明の利器を使いこなし、テレビに出演してアイドル的な人気を博す人も出るなど、時代とともに魔女と魔法のありようは大きく変わっていった。そうしたなかでファウストは、人と魔女が助け合う古きよき時代の習慣を守り、地方都市ラピスの人々に慕われ頼られている。
突然、一年後には死ぬ運命にあると知ってメグは当初は落ち込むが、「ポジティブモンスター」と呼ばれる持ち前の明るさを発揮し、不可能に近い難題をやり遂げようと奮闘する。ファウストはそんなメグを優しく見守り、ときには厳しい言葉を投げかけながら、悩む彼女の背中を押す。深い師弟愛で結ばれたメグとファウストの絆と、コミカルで楽しい掛け合いは、本作の最大の読みどころだ。
嬉し涙を集めるという課題をきっかけに、メグは魔女としての生き方や、自分にしかできない役割について考えていくことになる。母の死を懸命に受け止めようとする幼い少女や、大切な時計が壊れてしまった親友、祖母のように慕う老女に見えた死の影など、ラピスの街の人々と関わるなかで、メグは誰かの役に立つ喜びに目覚めていく。嬉し涙を集めるためではなく、自分を信じてくれる人たちに何かを返したい、魔法だからこそ起こせる奇跡を見せたい。さまざまな出来事を通じて、メグはファウストの弟子から一人の魔女へと成長を遂げていくのだ。
メグを筆頭に、個性豊かな魔女たちのキャラクターも魅力的である。七賢人の一人である「英知の魔女」の祈は、製薬会社で新薬開発に従事する仕事に就いており、ファウストとは対極の科学的なスタイルが印象的だ。またメグと同い年ながら七賢人入りを果たした「祝福の魔女」のソフィは、才能に恵まれながらも魔法を憎み、この世から消したいと願っている。孤独な天才少女とメグが築く友情も、注目ポイントだ。
2024年7月17日(水)には続編となる『ある魔女が死ぬまで2 -蒼き海に祝福の鐘は鳴り響く-』も刊行。目の前に立ち塞がる逆境を前に、メグはどう立ち向かうのか。
文=嵯峨景子