人が生んだ怪物か。北海道で“66頭”の牛を襲ったヒグマ「OSO18」560日に及んだ執念の捜索劇
PR 公開日:2024/7/11
2019年から2023年にかけて、北海道東部で66頭の牛を襲ったヒグマ“OSO18”。その名は、ニュースなどを通じて全国的に広まった。
『OSO18を追え〝怪物ヒグマ〟との闘い560日』(藤本靖/文藝春秋)は、世間を震撼させたヒグマを追い続けた、「OSO18特別対策班」リーダーによる手記だ。
その顛末は、2023年10月放送の「NHKスペシャル OSO18 “怪物ヒグマ”最期の謎」でも取り上げられて注目された。本書では新たに違った形で、著者たちの奮闘を伝えている。
最初の被害報告は、2019年の7月だった。OSO18のコードネームは当時、被害の発覚した現場の地名が「オソツベツ」であったため。ナンバー“18”は、先の現場に残されていた熊の足跡の幅が18cmであったことにちなむ。
北海道釧路総合振興局・保健環境部環境生活課から、OSO18についての協力依頼を受けたのは2011年10月。その後、著者は信頼するハンター赤石氏と捜索を開始した。
1頭のヒグマにたどりつくため、捜索しなければならない範囲は標茶町の1099平方キロメートルと厚岸町の735平方キロメートルを合わせた、1834平方キロメートル。東京23区の約3倍で、著者は「砂漠に落ちた一本の針を探すような話」であったと喩える。
“560日”に及ぶ捜索劇。OSO18は次から次へと場所を変えて襲撃をしており、さらに「死亡した牛と同じくらい負傷した牛がいる。つまり“死亡率”は半分程度」という違和感もあった。わざわざ牛を襲っておいて食べていないのはなぜか。野生動物管理のプロである著者にとっても、特に後者は大きな謎だったという。
神出鬼没の「忍者グマ」は、どこにいるのか。かすかな痕跡をたどっての2023年6月。執念の末に、著者たちはOSO18の「カラー撮影」に成功する。体重280~320kgほどのオスであると推定されていた巨体のヒグマは、木にみずからの体をこすりつけていた。
そして、2023年7月に事態は急転する。釧路町役場の職員でもあるハンターが、牧場の牧草地で伏せていたヒグマを射殺。体毛のDNA鑑定により、OSO18であると分かった。
後日、著者は仲間と共に「なぜOSO18が生まれたのか」と語り合ったという。その背景には農作物を荒らすエゾシカの存在があり、駆除され不法投棄にあったエゾシカによって肉の味を覚えたことで「肉食化の傾向を強めてしまった」と本書では言及。「OSOという怪物を生み出したのは人間」と、考察している。
昨今、動物愛護の観点から“熊を捕殺するべきか、否か”との議論もよく見かける。考える一助として、目を引いたのは「何らかの形で人間に対して害をなすクマに対しては毅然とした態度で処理に臨むことが鉄則」との一節だった。人が生み出した怪物と、人はどう対峙するべきか。本書にある前代未聞の追跡調査の200ページ以上に及ぶ「全記録」は、多くの教訓を残す。
文=カネコシュウヘイ