『東リベ』作者の最新作! 「あんなかっこいい生き方をしたい」と思われるよう描かれた『願いのアストロ』でみせる世界
公開日:2024/7/28
『東京卍リベンジャーズ』(講談社)の和久井健氏が、週刊少年ジャンプで新連載を開始する…この報せは、2024年のマンガファンをおおいに湧かせた。驚きの声に包まれ始まった『願いのアストロ』(集英社)は、はやくも2024年7月に単行本第1巻が発売。さらに「次にくるマンガ大賞2024」コミックス部門にもノミネートされるなど、その勢いは加速し続けている。
和久井氏はかつてのインタビューで、いつか読者が苦しいと感じる瞬間に、自身の作品を思い出して「あんなかっこいい生き方をしたい」と思ってもらえる存在でありたい、という願いを口にしていた。
その思いは『願いのアストロ』にもしっかりと引き継がれている。この記事では物語序盤のシーンを紹介しながら、マンガ家・和久井健が本作で描く“生き方”の末端に触れたいと思う。
『願いのアストロ』の主人公・ヒバルは、関東屈指の極道「世剣(よつるぎ)組」組長の実子だ。ヒバルの父であり世剣組組長の金剛は、自身の正義や弱い人のために行動する義侠心を持ち、人望も厚い。金剛は親を亡くした子どもたちを養子として迎え入れ、ヒバルと共に育ててきた。物語は、そんな金剛の葬儀から始まる。
成長した子どもたちは、世剣組の跡取りが誰になるのか気が気でならない。あらたなビジネスに乗り出している世剣組の利権を得るためだ。そして葬儀の終盤、ヒバルが二代目世剣組組長として指名したのは意外な人物で…。
順当にいけば、跡取りは実子のヒバルだ。しかしヒバルはそれを「オレじゃダメなんだ」と拒む。父が築いた“弱きを助け強きを挫く”義侠心のある世剣組を愛しているヒバルは、利益を追求し人情を失った組の変容を受け入れられずにいた。だからこそ、自分が組長になれば組が分裂してしまう、と考えたのだった。
形が変わろうとも世剣組を愛しているヒバルは、自分が組長となることよりも“家族”が再びひとつになれる道を選んだ。こうありたいという未来を実現するために最善手を模索する姿…それは読者にひとつの生き方を提示しているように思う。
しかしここから物語は一変。巨大な隕石が墜落し、街は壊滅。さらに、隕石の影響で多くの人々が「アストロ」と呼ばれる異能力に目覚めてしまう。もちろんヒバルも例外ではない。そしてこの「アストロ」の発現が、義兄弟たちの分裂に拍車をかけてしまう。
「アストロ」に目覚めたヒバルの義兄弟たちは、その力を誇示し次期組長の座に名乗りを上げ始めた。ヒバルは愛する兄弟たちの分裂をなによりも憂いている。自分の目指す“義侠心を重んじる世剣組”は時代にそぐわない、と理解しつつも「向き合うことで理解してほしい」と願い、それぞれの拠点へと赴く決意を固めるのだった。
和久井作品の魅力のひとつに、1対1で描かれる人間関係の強さがある。『東京卍リベンジャーズ』のマイキーと武道の関係などは、記憶に新しいだろう。大切な人と真摯に向き合う状況は、和久井作品における重要なファクターともいえる。
ヒバルがこれからやろうとしているのは、愛する義兄弟との1対1、タイマンでのぶつかり合いだ。皆がどんな思惑を持ち、ヒバルはどう決着をつけていくのか。注目したい。
最後に、『願いのアストロ』はとにかくマンガがうまい。異能力「アストロ」を駆使したバトルシーンは流れるような躍動感が見事だし、怒りや悲しみが発露した表情のグラデーションは美しくすらある。ストーリーの魅力も含め、和久井氏の純粋なマンガ力(りょく)の高さを楽しめる作品といえるだろう。
終末世界を舞台に、彼らはどんな生き方をみせるのだろうか。ヒバルの旅路はまだ始まったばかりだ。