ドラマ化決定!「内容…全部薄くね…?」オヤジのアドバイスが的外れすぎるグルメ漫画『飯を喰らひて華と告ぐ』
公開日:2024/7/9
見知らぬ国の料理を食べたとき、一口目ではその美味しさが分からないことがある。しかし二口、三口と食べ進めていくうちに、味に夢中になっていた……。そんな珍味とも呼べる新感覚グルメ漫画がある。ヤングアニマルWeb掲載の『飯を喰らひて華と告ぐ』(足立和平、白泉社)だ。
東京の路地裏にひっそりと佇む小さな料理屋の「一香軒」。一見、中華屋のような店構えだが、客の食べたいものなら何でも出すという奇特な店だ。訪れる客は老若男女、さまざまな悩みを抱えた人たち。情に厚い店主(オヤジ)は彼らに親身に寄り添い、心を癒す絶品の料理を提供する。
あらすじを読み、似た設定のグルメ漫画を頭に浮かべた人もいるかもしれない。しかし本作は、ただのグルメ×人間ドラマにとどまらない。もし前情報なしに先入観だけで一話を読んだなら、作品の楽しみ方が分からずに首を傾げてしまうだろう。筆者自身、料理や食事シーンを楽しむべきなのか、人間ドラマを味わうべきなのか、迷子になってしまった。しかし3話4話と読み進めていくうちに気付いてしまう。これはギャグ漫画なのだと。
というのも、店主(オヤジ)の人情味あるアドバイスがとことんズレているのだ。オヤジ本人は客の抱える悩みを見抜いたつもりになって、自信満々にうんちくを語りかける。だが、どれもこれもが的外れで、深そうに思えて実はとびきり浅い。さらには存在しないことわざをキメ顔で披露するため、客も読者も「そんな格言あったっけ?」と困惑してしまう。オヤジの勘違いから生まれるシュールな笑いが、本作に混沌と中毒性をもたらしている。1話完結型で話が進むため、味わい方が分かってくると「次はどんな勘違いと笑いが待っているんだろう」とニヤニヤしてしまう。
もちろん、グルメ漫画としても非常に“絶品”だ。なんせこの作品、飯が異様に美味そうなのである。高い画力で写実的に描かれる調理シーンからは、中華屋でアルバイトをしていたという作者のこだわりが伝わってくる。毎回数ページにわたって調理工程の一つひとつが丁寧かつダイナミックに描かれており、どこかズレているオヤジもこのときばかりは格好よく見える。出来上がった料理をドンっと見せられるたび、「うまっそうだな」と口から出てしまった。肉じゃがやオムライス、だし巻きなど、心が疲れたときについ食べたくなる料理ばかりなのも、「美味しそうなグルメ漫画を読みながらご飯を食べる」という性癖持ちにはたまらない。
オヤジのズレた勘違いに対し笑ったり呆れたりしていた客は皆、店を去るときには不思議と心が少し軽くなっている。そのすっきりとした読了感は、まるで食事を食べ終わったあとの満足感にも似ている。
料理の美味しさと絶妙な笑いを楽しめ、料理漫画としての新たな境地を開拓した『飯を喰らひて華と告ぐ』。7月9日(火)より、TOKYO MXで実写ドラマも放送される。原作の魅力が実写でいかに表現されるのか、今から楽しみだ。
文=倉本菜生