トム・ブラウン布川ひろきのエッセイ連載「おもしろおかしくとんかつ駅伝」/第6回「水曜どうでしょう」

文芸・カルチャー

公開日:2024/7/10

おもしろおかしくとんかつ駅伝

何を隠そう僕は北海道出身です。当然北海道のことが大好きです。色んな媒体でも北海道のことが好きなことは言ってきてます。
松山千春、GLAY、ドリカム(吉田美和)、YUKI、雪まつり、味噌ラーメン、ジンギスカン、スープカレー、コンサドーレ札幌
等々好きだと言ってきています。
ただひとつどこでも言ってない、なんならほんのり隠してきたものがあります。それは

「水曜どうでしょう」

です。
いまや紅白歌合戦の司会まで上りつめた大泉洋さんとその事務所社長である鈴井孝之さん(ミスター)が25年くらい前に立ち上げた北海道ローカルの深夜番組です。
一気に人気が出て全国でも色んな局で放送され、歴代の地方ローカル番組の中でも一番人気があるのではないかと思います。
道外の方はわからないと思いますが、北海道内ではさらに爆発的人気で23時台で18%も取っていた化け物番組です。

僕は中学生の時にサイコロの旅を初めて見てその過酷な面白さに一瞬で好きになりました。過酷なことをさせられ、大泉さんがボヤいてディレクターの藤村さんとケンカをする。タレントが過酷なことをするのは見たことありますが、顔の出ないディレクターとケンカをするのは見たことのない構図でハマりました。

ハマりすぎた僕は母校の東陵高校の学校祭で「東陵どうでしょう」という出し物をやりましたし、僕が色んな番組で「ガァッ!ガァッ!ガァッ!」と笑うのはディレクターの藤村さんの笑い方をマネしていたのが染み付いて今もそう笑ってしまうからです。

でもほぼ人には言いませんでした。
僕はお笑いを始めて札幌よしもとに所属していたのですが、その頃水曜どうでしょうを見ているというのが何か言えない空気でした。
同じ北海道でなんとなくライバルのような空気感があったからです。
それでも僕はこっそりと札幌よしもと芸人には誰にも話さず、毎週見てビデオの爪まで折って保存もしていました。表現が合ってるかわからないのですが、キリシタンのような感じでした。どちらも何も悪いことはしていないのですが。

 

それから20年がたって当時の札幌よしもとの芸人と飲む機会がありました。楽しく飲んでいたのですが、何かそのことがずっと心の奥底に引っ掛かっていたので意を決して言いました。

「実は僕当時『水曜どうでしょう』めちゃくちゃ見てたんですよ。録画して爪まで折って。」

「え。そうなの?
実は俺もこっそりめちゃくちゃ見てたんだよ。」

、、、
こんなことがあるのか。
他の芸人もまったく同じだったのです。

他の先輩や後輩も見てたけど言わなかった人がたくさんいました。
みんな勝手になんか言ったらダメだと思い、勝手に隠すようにしてたのです。
バカ忖度です。

後悔しています。
あの時変な空気を読まずライブとかで水曜どうでしょう大好きと言っていれば良かったです。
僕が嫌いな多数派が正義みたいなものに飲み込まれてしまったと思っていたら、そんなものは最初からなかったのだから。

今も色んな場面でなんかここで発言したらダメだよなぁ。という空気を感じることがあるのでこの水曜どうでしょうのことを教訓に変な空気を読まず言っていくことにしよう。

 

この前スタッフさんや芸人数人でお笑いの打ち合わせがあり、その時にとなりのトトロの話になりました。

「そのトトロのボケいいね!」

などとみんなが案を出し合って盛り上がっていたのですが、何を隠そう僕はトトロを見たことがありません。
言う必要もないかと思いそのまま流そうと思ったのですが、その時水曜どうでしょうの教訓を思い出しました。
勝手な忖度はしない。
自然と口が開いていました。

「すいません!僕、実はトトロ見たことないんですよぉ~!」

「、、、、」
「、、、、」
「、、、、そう、、です、、か、、」

 

、、、
大泉さん、ミスター、藤村さん、嬉野さん。

僕、合ってましたかねぇ~?

<第7回に続く>

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