弱者の世界/絶望ライン工 独身獄中記㉒

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公開日:2024/7/10

絶望ライン工 独身獄中記

私の趣味は動画投稿であるが、稀に子供向けに内容を作ることがある。
小さいおともだち「たかしくん」に宛て、反面教師としての立場からメッセージを発信する。
主に努力の重要性や学問で将来の選択肢を増やす方法、職業によって働く人の所得や属性に違いが出ること、ユートピア思想の素晴らしさと危険性を伝える内容である。
職業差別とも取れるスレスレの考察もあるが、日本で最も差別されるのは人種や宗教ではなく職業だ。
私は婚活を通し、身をもって職業差別を経験した。
この散文を読んでくだすっているであろう、心優しい読者諸君は職業差別に声を上げて立ち向かう勇気のある方々だ。
しかし医者と非正規労働者、どちらが婚活女性に選ばれるか?
その解は火を見るよりも明らかである。
そして私は、こんな世界で生きていくしかない運命に絶望し、毎日地獄の苦しみを味わっています。

動画にできなかったフレーズに、以下がある。
たかしくん、なぞなぞだよ。
高学歴が作って低学歴が配るもの、なーんだ?
答えは新聞である。
しかしさすがに動画にできねえ。
(このなぞなぞは私が考えたものではなく、ネットの海で見知ったテキストである)
見ようによっては新聞記者も拡張員もどちらも下衆な商売であるという意見もあるが、婚活女性を判断基準とすれば記者に軍配が上がりそうだ。
選ばれる者を強者とするなら、選ばれない者、持たざる者は弱者となる。
婚活市場において弱者はコテンパンにやられ、反撃の機会は皆無だ。
格闘ゲームでよくある蓄積ダメージからの大逆転技、そんなものは存在しない。

婚活サービスはよく弱者ビジネスなどと呼ばれる。
配偶者に選ばれず子孫を残せない生物的弱者、所得が低くゲームに参加すらできない社会的弱者。
どちらにせよ弱者を対象としているのだから、そう呼ばれているのだろう。
他人事のように書いているが、もちろん自分の事である。
とてもつらい。
持たざる者はいつだって搾取される弱者なのだ──

ところがそう考えると世の中の全ての仕事が弱者ビジネスであることに気が付く。
ラーメン屋はおいしいラーメンを作れない弱者向けの商売だし、服を作れない弱者のためにユニクロがある。
野菜を作れない弱者に野菜を作って売る弱者ビジネス、これは農家だ。
登山したいけどめんどくせえ。そんな弱者に代り登山家が山に登るのだろう。
サービス業、製造業、コンサル、サラリーマン、投資家、スポーツ選手・・・皆弱者ビジネスに思える。
周りを見渡せば弱者だらけ、野菜弱者や登山弱者に混じって婚活弱者の自分がいたとしても、まったく気にならなくなる。

面白いことに近年自ら弱者を名乗り、群がる弱者からさらに搾取せんとする「ビジネス弱者」なるものの台頭も目立つ。
代表的なのが動画コンテンツで流行している「ぼっち営業」である。
アイドルも声優もVtuberも皆口を揃えて言う。
私ぼっちなんです~彼氏いないんです~でも皆がいるから寂しくないよ~~
その尊さっていったらないぜ、騙されてみるもんだ。
そして突然のご報告。
この度~以前からお付き合いしておりました~誰々さんと~~
彼女たちは華憐で儚い花だ、夢だ。夜空を舞う刹那の火球だ、流星だ。

休日の昼に「騙しやがって許さない」と怒りに震えながら筆を執り、昂ぶる感情にまかせて本稿を書き殴る悲しい弱者を、貴殿は観測している。
たかしくん、こんな大人になってはいけないよ

<第23回に続く>

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絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
41歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。