子どもが動画やゲームに夢中に…やめさせなきゃダメ? デジタルネイティブ世代を育てる親の悩み【アベナオミ氏インタビュー】
更新日:2024/7/16
動画やゲームに育児で助けられた経験を持つ親は多いだろう。同時に、「スマホに子守りをさせないで」という言葉に後ろめたさを感じることもあるのではないだろうか。デジタルコンテンツ漬けはよくなさそう、でもいまさら動画やゲームのない育児には戻れない。親自身の子ども時代には存在しなかったデジタルコンテンツとどう付き合えばいいのか。
令和の親ならではの悩みに応えるコミックエッセイ『うちの子、ゲームして動画ばっかり見てますけど大丈夫ですか!? もしかしてデジタル依存!?と思ったら』(KADOKAWA)が2024年7月16日(火)に発売。作者のアベナオミさんは3人の子どもを育てる母で、デジタルコンテンツとの付き合い方に悩む親の一人だ。自身の悩みをネット・ゲーム依存の予防回復の支援をしているMIRA-iの所長、森山沙耶さんにぶつけていく姿は、多くの令和の親に刺さるものになっている。本書の制作を通じてどんな気づきを得たのか、アベさんにインタビューした。
――子どもにデジタルコンテンツをどのように与えるのかは悩みの種ですね。アベさんが、子どもたちが「動画依存になってしまっているのでは?」と感じたことはありましたか?
アベナオミさん(以下、アベ):一番心配だったのは、動画時代の申し子である末っ子の赤ちゃん時代ですね。早くよく寝る子でしたが、とんでもなく早起きする子で…。早朝4時、5時、ひどい時は3時に起きてしまう時期がありました。親も眠くてクラクラするので、膝に座らせてテレビで動画を見せながら日の出を待つのが日課に。この時は「赤ちゃんにして動画なしには生きていけなくなってしまったのでは?」と心配でした。
――動画やオンラインゲームはアベさんの子ども時代にはなかったわけですが、アベさんは「物心がついた頃にはファミコンがあり、ゲームと共に生きてきた」とのこと。ゲームはどれくらい楽しまれていたんでしょうか?
アベ:兄がゲーマーだったのもあり、物心ついた頃には兄がプレイしているファミコンを眺めていた記憶があります。今思えば、リアルゲーム実況ですね。一番ゲームにハマっていたのは小学5年生くらいから中学校3年生くらいまで。私は3人兄妹の末っ子だったので、ゲーム機の争奪戦に勝てずにおりましたが、初めてスーパーファミコンのソフトをお年玉で購入したのがきっかけで、ゲームをする時間が増えた気がします。一番プレイ時間が長かったのは『ファイナルファンタジーVIII』。自分のお小遣いで発売日に購入し、私がクリアするまでは兄と姉には「プレイしないで!」とお願いしました。それまでは先にネタバレしてからプレイすることがほとんどでしたが、初めて自分が兄妹の中で一番にエンディングを見る経験ができました。漫画にも描きましたが、兄も姉もプレイステーションを使うので、私は早起きをしてプレイ。テレビデオ(ビデオ内蔵型テレビ受像機)でプレイしながら、ムービーのシーンをビデオで録画して、後で見返すなんてこともしていましたね。『ファイナルファンタジーVIII』は好きすぎて、コミケにサークル出展もしました(笑)。
――本当にお好きだったんですね! そんなアベさんに、お母様が「ゲームは20時まで!」と注意されていたようですが、アベさんの子ども時代は、大人がゲームに対してどんな対応をされていたんでしょうか?
アベ:母はゲームという新しい娯楽に吸い込まれていく子どもたちと毎日戦っていたんだと思います。夕食やお風呂の時間になると声をかけにくる母に対し「今、セーブできないから」という魔法の言葉で、プレイ時間を延ばす努力をしていましたね…。今思えば母だって「そんなことないだろ」と内心思っていたんだと思います(苦笑)。ゲームは20時までというルールは厳密には小学校までで、中学校に上がると少し緩みました。深夜まですることはNGでしたが、早朝だけは許されたので、私は早朝に全振りしたんです。親になってみれば、夜更かしより早起きの方がマシな感じがするので、母の気持ちがわかるような気がします。
――時代と共に新しい娯楽が生まれるのはつきものですから、それぞれの世代で苦労があったのでしょうね。アベさんの「うちのルール」として外食時やバス・在来線ではデジタルコンテンツに触れることはNGとしているとありました。これはどのように決まっていったんでしょうか?
アベ:ルールは自然に決めていった感じです。現在中学3年生の長男が乳幼児の頃は、スマホが出てきたばかりのタイミングだったので、私たち以外の保護者もみんな手探りの時期でしたね。本の中では「長男が本格的に動画を見始めたのは3歳ごろ」と描きましたが、実は1歳7カ月ごろに一時的にたくさん動画を見せていたんです。我が家は宮城県在住なので、東日本大震災で被災しました。電気は3日で復旧したんですが、テレビは全部震災関連の報道。子ども向け番組がなく、当時は家に無線LANもなく、スマホでの動画視聴が難しかったのでパソコンで動画を見せていました。楽しくてどんどん見てしまうので、震災後の生活が落ち着いた2歳ごろのタイミングでパソコンでの視聴を徐々に減らしていきました。その後、長男が3歳くらいの頃からスマホで視聴し始めて、お店で見る時は音量を出していいのか? 音量はどれくらいまで? 食べている間は? 買い物中のショッピングカートでは? 祖父母や友人の宅ではどうする? 法事や結婚式などの冠婚葬祭では? 生活のすべてのシーンでどうすればベストなのか周りを見渡しながら模索を続けていくうちに今のルールになりました。
――そして、コロナ禍の自粛生活も相まって、お子さんたちの動画視聴とゲームが習慣化していったんですね。不安を感じているアベさん夫妻に対し、森山先生からは「別にやめさせなくていいのです」という話がありました。
アベ:これは一番衝撃的で、一番ホッとした瞬間でした。私自身も現在スマホなしには生きていけない大人なので、自分のことも肯定してもらったような気がします。そしてもしも「今すぐやめさせてください!」と言われてしまったら、私は「どうやって明日からの育児をこなしていけばいいのか?」と絶望したと思います(笑)。
――森山先生からの話で一番発見となったことはなんでしょうか?
アベ:一番の学びはプロゲーマーと依存症の違いです。健康を害していないか? ゲームや動画に囚われすぎていないか? この軸を知ったことによって、だいぶ気持ちが楽になりました。本書を執筆しながら「健康を害するようなことがあったら、夫婦でルールを再設定しようね」と夫と2人で決めたんです。そしたら先日、小学校3年生の次男に眼科検診がありまして。前年度は1.0以上あり、A判定だった両目の視力が今年は0.2以下のD判定に!!!! 早速すぎてもう涙が出ましたが、健康を害したということになったので、現在夫婦でルールの再設定に向けて話し合い中です。
――視力は大事ですものね。森山先生からは身体的、精神的、多方面からのアドバイスがありました。
アベ:そうですね。ルールを守れなかった子どもに対して、どのように接するのがよいかも「子どもの行動を客観的に観察する」「好ましい行動に注目し、何かを言いたい時は“最初にほめる”」とアドバイスをいただきました。実践したところ、長男からは「ちょっと褒めた後に小言を言うのは嫌味っぽいからやめた方がいい」と言われてしまいました(苦笑)。でもめげずにちょっと褒めては注意しています。相変わらず長男からは「また嫌味~」と言われますが、長男は思っていたよりも親は自分を見ているんだなと実感していると思います。以前は暴言を吐きながら自室でオンラインゲームをしていましたが、最近では「俺のプレイかっこいいから見て」と誘われるようになりました。声かけの仕方を変えたことで、親子のコミュニケーションの時間が増えました。根気よくやっていくしかないですね~。
――同じような悩みを持つ“令和の親”へメッセージをお願いします。
アベ:ゲームと動画のない育児なんて考えられない! けどそんなこと大きな声で言えない!と思っている、同じダンジョンで迷いながら戦っているすべての親御さんへ。令和というオープンワールドで、同じ悩みを解決すべく一緒に戦っている戦友です。私が本書を執筆しながら痛感したのは、親がしっかり子どもを見守る大切さ。ゲームも動画も敵ではなく、最大の敵・ラスボスは“無関心”なんだと思いました。親だって、スマホがないと生きていけない体になってしまっているので、ゲームや動画とうまく付き合っていくことは簡単なことではありませんが、子どもと上手にコミュニケーションをとって、令和の子育てを一緒に頑張りましょう!
取材・文=西連寺くらら