独立、出産、離婚――ポルトガル料理研究家の人生を、レシピとともに綴る料理本『ホルモン大航海時代』

暮らし

PR 公開日:2024/7/12

ホルモン大航海時代 ポルトガルと日本で見つけた自分のための鱈腹レシピ23
ホルモン大航海時代 ポルトガルと日本で見つけた自分のための鱈腹レシピ23』(馬田草織/TAC出版)

 朝食を食べながら、「今日の昼食どうしよう」と考える。
 昼食を食べながら、「今日の夕食どうしよう」と考える。
 夕食を食べながら、「明日の朝食どうしよう」と考える。

 これは別に、筆者の食い意地が張っているという話ではない。日々仕事や家事・育児に追われていると、食事中が最も”次の食事の都合を考える”時間として適切なタイミングである事がたまにある、という話だ。
 自分一人の食事であればそんなものどうにでもなる。しかし自分以外の誰かもその食事に関わるとなると、どうしてもそうはいかない。

 とは言えあれこれ考えた末、結果として手抜きのルーティンメニューになる事も当然多々ある。それでも時折時間や手間に余裕があれば、いつもとやや趣向を変えたメニューや初めてのレシピに挑戦してみよう、と思う日もある。
 そんな時、頼りになるのがいわゆるレシピブックや料理本といわれる書籍たちだ。『ホルモン大航海時代 ポルトガルと日本で見つけた自分のための鱈腹レシピ23』(馬田草織/TAC出版)もまた、そんなまだ見ぬ新たな味覚への水先案内をしてくれる一冊でもある。

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 本著は、文筆家でありポルトガル料理研究家でもある著者の暮らしから生まれた料理エッセイだ。独立や離婚、出産といった人生のターニングポイントから、ポルトガルでの出会い、あるいは娘と暮らす日常などを、レシピとともに文章に記している。
 ありもの料理がいつしか定番になったという「愛しの納豆蕎麦炒め」や、塾に向かう娘にレンチンで大至急作る「レンチン蒸し鶏ごはん」、極薄のふわふわ生ハムを炊き立てごはんにのせる「背徳の生ハムごはん」、あるいは、自身の人生に大きな影響を与えたポルトガルの米料理「鴨ごはん」や「あさりごはん」など。多彩でアクセントの利いた23品のレシピが、料理の生まれた背景が見えるエッセイとともに紹介されている。

 料理のレシピと共に綴られる著者の日々は、働く一個人として、女性として、娘と向き合う親として、あるいは高齢の親を持つ娘としての普通の暮らしだ。誰もが誰かの子どもであり、ときとして親であり、そして悩みを持つ一個人である。だからこそ、共感や近しい感覚を伴って読める内容も多々ある。そういった近しい体験を伴ってレシピに触れると、”この料理を作る自分の生活”の解像度はおそらくグンと上がる。

 この料理を作ったら、家族はどんな感想を抱くだろう。
 大切な人は、これを食べた時どんな顔をするのだろう。
 自分以外の誰かも関わる食事を用意する際、そんな思いやりあるいは好奇心は、時に料理の原動力ともなり得る。そして日頃の小さなルーティンからわずかに外れたその行動が、普通で変わり映えのない毎日を、ちょっとだけ特別なものにしていくのかもしれない。

 我々の生活の中で欠かすことのできない食事。
 少し前にはとあるメディアに出演した、「食事に費やす時間はすべてムダ」「完全食で効率のみを考える」という男性の意見が話題を呼んだことも記憶に新しい。しかしその営みの目的を単なる生命維持行動のみに据えるのは、やや無味乾燥すぎると感じる人も多いに違いない。
 何気ない日々の普通の生活に、ほんの少しアクセントを加えてくれる。それこそが、未知のレシピ・食事文化を私たちに提供してくれる、料理本の存在意義のひとつでもあるのだ。

文=ネゴト/ 曽我美なつめ

<更年期という大海原を愉快に乗り切りたい。『ホルモン大航海時代』刊行記念・馬田草織×田辺真由美トーク&調理解説ショー>
【日程】7月14日(日)14:00~15:30
【場所】ジュンク堂書店池袋本店 9Fイベントスペース
(※オンライン視聴・アーカイブ配信あり)
【登壇者】著者・馬田草織、編集・田辺真由美
【イベント内容】
50代シングルマザーコンビの「ごはんこそ我儘がいい」「レシピ通りになんて生きなくていい」といった毎日を機嫌よく送るために心がけている諸々をお話しします。イベント限定公開の調理映像とともに、書籍掲載メニューのコツやエピソードをお伝えする予定です。

▼イベントページ
https://online.maruzenjunkudo.co.jp/products/j70019-240714

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