第13回「友達がどんどん減っていく酒飲み独身女と深夜の焼きそばパン」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない⑬
公開日:2024/7/12
さっき開けたばかりのはずのレモンサワーが、いつの間にか空っぽになっていた。
ぱりぱりとつまんでいた味付け海苔を、窓から見える空にかざすと、おんなじ色をしている。
執筆の〆切に追われすぎて、22時をまわっていることに今気づいた。
夕方から放置していたスマートフォンの通知は特にない。
迷惑メールだけが、13件も溜まっていた。
〆切から解放されて、背中に翼が生えた気分だ。
居酒屋に、まっすぐ飛んでいきたくなる。
いきなり「ねえ、飲みに行かない?」なんて誘える友だちは近所にいない。
行きつけの居酒屋は、健全なのでもうラストオーダーが終わっていた。
夕ご飯もまだ食べていない。
一刻も早く頑張ったご褒美に2缶目のレモンサワーを飲みたい。
どうしてだろう。
執筆するまでの道のりは果てしなくいつもギリギリになってしまうのに、コンビニに行こうと思ったら、頭より先に足はコンビニを目指して歩いている。
今夜はカップ焼きそばに思いっきりマヨネーズをかけまくって、どうにかなってしまいたい。
コンビニに行くと、グミの新作出てないかなぁと、毎度立ち止まってしまう。
そこから、冷蔵コーナーでサンドイッチやおにぎりを眺め、おかずやおつまみコーナーへ移動する。
空っぽの頭で、無心でカゴの中にぽいぽいと酒やおつまみを入れていく。
「今日はペヤングにするか、ごつ盛りにするか悩むな〜」。
うんうん唸っていると、出会ってしまった。
隣の菓子パンコーナーから可愛らしく、顔を覗かせるマヨたっぷりの焼きそばパンに。
線香花火がぱちぱち静かに音を立てるように、わたしは静かに恋に落ちた。
『クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園』
焼きそばパンを見かけると、いつもこうだ。
彼女を見かけるたびに、その魅力で胃の奥がキュインと苦しくなる。
手にした瞬間に、青春がきらきら水飛沫をあげるように、ぶわあぁっと再生される。
かけがえのない青春を教えてくれたのは、
映画『クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園』だった。
しんちゃんと風間くんが傷だらけになりながら追いかけた焼きそばパン、ボーちゃんの甘酸っぱい初恋、彼らが一生だと信じた絆。
昼休みになると、購買に走って焼きそばパンを買いに行ったり、プリン争奪戦になるなんてことは一切なかったけど、しんちゃん達の青春は胸の中で生きて光る。
映画『クレヨンしんちゃん 謎メキ! 花の天カス学園』は、春日部に全寮制の超エリート校があって、風間くんからの提案で体験入学をみんなでするというはじまり。
全てエリートポイントで成り立っている学園で、お昼ご飯も優秀であればあるほど豪華になるのだ。
豪華なステーキやカニしゃぶを食べられる生徒もいれば、パンの耳と牛乳しか食べられない生徒もいる。
エリートな特待生に、みんなと一緒になりたい風間くん。
そもそも学園にすら興味がないしんのすけたち。
ある日、しんのすけに巻き込まれて、風間くんが頑張って貯めたエリートポイントが大幅減点されてしまう事件が起こる。
たちまち喧嘩に発展し、そのまま絶縁状態になってしまうのだ。
そして、部屋を飛び出した風間くんが、そのまま行方不明になってしまうという、ざわざわするミステリー要素も含まれている作品になっている。
友だちの作り方
春日部防衛隊のゆるがない絆には、いつもぽろぽろ泣かされてしまう。
どうやったら、純度100%の親友ができるのだろう。
そんなことを考えながら、卒業を繰り返し、気付けば大人になっていた。
酒を飲まずして、人と仲良くなる方法がわからない。
どうやって、友だちってつくるんだっけ…。
わからない。習っていたはずのピアノがもう何も弾けなくなってしまったように、友だちの作り方を忘れてしまった。
そもそも、仲間たちと世界滅亡の危機を救うとか、仲間を救うために過去をやり直すとか、そういうイベントがないと強い絆って生まれないんじゃないだろうか。
いまや、そんな捻くれた発想しかない自分にも、一度だけ「これが仲間なんだ!」と思えた出来事があった。
それは、学生時代の修学旅行最終日の出来事だった。