「結婚する前にフリーの期間を楽しまない?」と提案する恋人。結婚は本当の幸せなのか…?
PR 公開日:2024/7/17
恋愛関係は厄介だ。相手を想う気持ちの強さ、深さや、経済状況によって上下関係が生まれやすい。より相手を愛している方が軽く扱われたり、経済的に下である方が弱い立場になりもする。
『サムシングフォーブルー~わたしのしあわせは結婚?~』(花糸/DPNブックス)の主人公・小羽もまた「結婚したい」という気持ちをパートナーにつけ込まれ、かなりぞんざいな扱いを受けている。
もうじき29歳を迎える小羽は大学時代からの恋人・利斗と交際10年、同棲して3年で、ほとんど夫婦といってもいい状態ながら、まるで結婚を匂わせない利斗の態度にもやもやとしたものを感じていた。だけど小羽の誕生日、利斗からプロポーズされる。感動する小羽だが、続いて耳を疑う提案をされてしまう。2年間ぐらい、フリーの期間を楽しんでから結婚しない? と。
家事も生活費も小羽の方が多く負担しているのに、生来の“尽くし対質”に加えて控えめな性格であるため、利斗はどんどん増長。小羽に対して息をするようにモラハラをするように。
小羽は絶対に自分のもとから離れない。だからどんな手ひどいことをしてもいい。なぜなら自分と結婚したいのだから――。きっと利斗はそう思っているのだろう。小羽の結婚願望を誰よりも分かっているからこそ、冒頭のような提案をするに至る。
会社の同僚で友人のマキは「そんなの完全に都合のいい女じゃん!」と憤ってくれるものの(それは読者の心の代弁でもある)、当の小羽自身は利斗に対して怒らない。いや、怒れない。
駆けだしの映像作家である彼の才能と努力を、ずっと近くで見つめてきた小羽。10年間、利斗と共に過ごすことで、彼の強さも弱さも、優しさも残酷さも、長所も短所も知り抜いてしまった。利斗くんにはわたししかいない。これからも一緒にいられるのなら、それでいい。だから彼が他の女性と遊びたいのなら、つらいけど受け入れよう――と決める。
小羽のその決断を「愚かだ」と感じる人も多いかもしれない。実際、小羽は自分の自己肯定感の低さを自覚しているし、利斗の振る舞いにちゃんと傷ついてもいる。だけど彼女の心には、出会った当初の純粋で誠実だった利斗の思い出が残っている。まだ大学の先輩と後輩だった頃、勇気を振り絞って彼は自分に告白してくれた。その瞬間、小羽は自分がこの世界にいてもいいと言われたような気持ちになったのだった。
フリー生活をさっそく満喫しはじめる利斗と、彼のそんな態度に苦しみながらも耐えようとする小羽。だけどフリーであるということは、自分が別の男性と付き合ってもいいということだ。ひょんなことからフラワーショップの店長・瀬尾と出会い、その穏やかな人柄に癒される。瀬尾もまた悲しげな雰囲気の小羽を気にかけ、彼女を笑顔にしたいと思ううち、惹かれるようになり……。
しあわせとは何なのか? 結婚か。だとしたら、どんな結婚をしたらわたしはしあわせになれるのか? 傷つきながら模索するうち、小羽は少しずつ自己肯定感を取り戻し、自分で自分を愛せるような人間へと変化する。そんな彼女の成長と恋愛の行方を、ときにハラハラ、じれじれしつつ見守っていきたい。
文=皆川ちか