免停&無職の青年が自動車教習所の指導員を目指す! クセ強な先輩たちとの出会いで彼が見つけるものは? ドライバーの心に響くお仕事コミック『しゃこうっち。』
PR 公開日:2024/7/26
自動車を題材にした漫画というと、手に汗握るスリリングなレースなどが描かれていることが多い。だが本稿で紹介する『しゃこうっち。』(田川ミ/マッグガーデン)は、そのような作品とは全く違う魅力を持つ自動車を題材にした漫画だ。
本作の舞台は自動車教習所。東京で仕事をクビになった青年が地元にUターンし、教習指導員という国家資格を目指すという、他作品ではあまり見ないものだ。
根拠のない自信を持ちながら車の運転をし、小さな交通違反を重ねていた坂越真直(ますぐ)は、速度超過による自損事故で免停。仕事をクビになり、地元・大分県の田舎町にUターンした。
帰省後、真直はひょんなことから自身が通っていた自動車教習所を訪れ、当時、嫌な思いをさせられた指導の和達正行と再会する。スパルタ指導だった正行と久しぶりに言葉を交わした真直はまた嫌な気持ちになったが、自動車教習所の管理人から思わぬ誘いを受けて気分は一変。なんとAT限定解除の試験をクリアすれば、指導員として雇うと言われたのだ。
無職の真直は俄然やる気に。かつての学び舎でスパルタな指導を受けながら、交通ルールを学び直す。その結果、真直はなんとかAT限定解除試験をクリア。順調に指導員への道を歩み始める――と思われた。
試験合格後、父親が交通事故に遭ったことで真直の気持ちに大きな変化が。いつも安全運転だった父親が交通ルールを守らない車に命を奪われかけたことで、初めて自分がいかに危険な運転をしていたかに気づき心が揺らいだのだ。
罪悪感を持たずに小さな違反を繰り返していた自分も、事故を起こして誰かの命を奪っていたかもしれない。そう感じた真直は、指導員の職を辞退しようと考えた。
だが、そんな真直の想いを聞いた正行は厳しくも優しい道を指し示す。他人と自分の命を粗末にしたことを戒めにして、次へ正しく伝えていけと真直の背中を押したのだ。
この言葉を受けた真直は、安全運転の大切さを伝える指導員になろうと決意。だが、その道乗りは想像以上に険しい。教習指導員になるには国家資格が必要。「1年以内に合格しなければクビ」と宣告された真直は、自動車教習所で働きながら必要な知識や技術を習得し、国家資格の習得を目指す。
本作は真直と一緒に交通ルールを基本から学べるので、自動車や原付の免許を持っている人は特に物語に入り込みやすい。
また、自動車教習所を舞台に、クセの強い同僚と真直が繰り広げる人間模様がコミカルで見入ってしまう。真直は個性が強すぎる同僚たちに最初は戸惑うが、持ち前の明るさと社交性で輪に溶け込んでいく。同僚の中には免停を受けた真直に冷ややかな目を向ける者もいるが、良き指導員になろうと奮闘する姿勢がその心の壁を壊す。
第1巻では、交通ルールを軽視する人間を軽蔑している指導員・矢曲郁と真直が衝突しながらも心を通わせていくストーリーに感動させられた。そして彼らの安全運転への想いに触れ、自分の運転を振り返り反省してしまった。
「誰も見ていないから」「このくらいならいいや」「捕まったのは運がなかったから」。車を運転しているとそんな気持ちになることは誰しもあるはずだ。
だが、その油断や他責思考が自分や他者の命を奪う事故に繋がる可能性は極めて大きい。機械ではない私たちはその日の体調や気分によってハンドルの握り方が変わる。24時間365日優良ドライバーでいることはできないからこそ、運転席に座った自分のコンディションを冷静に把握し、常に優良ドライバーであるよう努めていかねばならない。
そう改めて認識させてくれる本作が、年齢も性別も問わず広くドライバーたちの手に届いてもらいたい。
文=古川諭香