発売後即重版!女性皇族の英国留学記 三笠宮・彬子女王のオックスフォード留学記がおもしろい!
公開日:2024/8/2
先日の天皇皇后両陛下のイギリス訪問は、久しぶりに多くの日本人の心を明るくしてくれるニュースだった。特にお二人が共に母校であるオックスフォード大学を訪問され、楽しげに語り合われるご様子には自然に笑顔になったという方も多いだろう。オックスフォード大学といえば、世界の大学ランキングでも常にトップクラスに位置するイギリスを代表する名門校。実は皇室とは縁が深く、皇太子時代の天皇陛下だけでなく、秋篠宮文仁親王、三笠宮寬仁親王など多くの皇族が留学されている。中でも寬仁親王の第一女子である彬子女王は女性皇族として初の博士号(専門は日本美術史)を同大で取得されている。
実は今、そんな彬子女王の留学記『赤と青のガウン オックスフォード留学記』(PHP研究所)に大きな注目が集まっているのをご存知だろうか? 2015年に単行本として出版されて久しいが、最近になってTwitter(現X)に書き込まれた読者の感想から火がつき、この春に文庫化。発売3ヶ月ですでに10刷30万部。Amazonの売り上げランキングでもベストセラー1位(注:「芸術一般関連書籍」2024年7月3日現在)と大人気なのだ。
彬子女王は学習院大学在学中の2001年9月から1年、大学卒業後の2004年9月から5年と計6年間をオックスフォード大学マートン・コレッジで過ごされている。本書はそうした日々の思い出を、彬子女王ご自身が雑誌の連載に発表されたものをまとめたものだ。実は一部のヨーロッパの国々に2週間を超えて滞在する皇族には側衛(そくえい。護衛のこと)がつかず、皇族といえども普通の学生と同じように学生寮で自炊を含む一人暮らしをすることになる。そのため本書の目線はいたって「一般人」。私たちが勝手に皇室に抱くイメージが小気味よく裏切られ(というか「知らなかった!」の方が多いかもしれない)、涙あり笑いあり、彬子女王のチャレンジになんだかワクワクするのだ。
初めて一人で街を歩いたときのこと、英語がまったく聴き取れずに苦労したこと、自炊の工夫、厳しい先生方の猛烈なしごきに耐えたこと、友人たちとの出会い、大英博物館での調査、調査旅行で列車を乗り間違えた話……なんと「格安航空券」を使ったためにとんでもない飛行場に降ろされたという超庶民派話があったと思えば、「エリザベス女王とティータイム」という「さすが皇族!」というエピソードもあって、話題のスケールの振れ幅が半端ないのも面白い。普通なら遠い存在である皇族のイメージがグッと身近になるだろう。
それにしてもオックスフォード大で博士号を取るというのは並大抵の努力で達成できるものではない。豊富な教授陣や大英博物館との連携といった研究環境の豊さなど、日本とは比較にならないアカデミックな環境の厚みにも圧倒されるが、そんな中で最後は胃炎になってしまうほど苦しみながらも、見事に博士論文を完成させた彬子女王には心から拍手を送りたい。きっと「私もこんなふうに海外でチャレンジしてみたい」と刺激される若い世代もいることだろう。そんなふうに思われてくれる先輩女性がプリンセスなんて。ちょっと誇らしい気分にもなる一冊だ。
文:荒井理恵