“あのとき”のインタビューをもう一度!ダ・ヴィンチ2015年3月号『僕のヒーローアカデミア』堀越耕平インタビュー
公開日:2024/7/29
ダ・ヴィンチ2024年8月号は、『僕のヒーローアカデミア』特集!
本特集を記念して、「次にくるマンガ大賞2015」の「これから売れてほしいマンガ部門」で『僕のヒーローアカデミア』が1位を獲得したときの堀越先生のインタビューを特別に公開します。
原作およびアニメ7期がクライマックスを迎えている今、特集に収録した堀越先生の最新インタビューとともに本インタビューを読むことで、『ヒロアカ』の軌跡をより深く味わってみてはいかがでしょうか。
※本記事は、雑誌『ダ・ヴィンチ』2015年3月号からの転載です。
“個性”がなくても僕は最高のヒーローになる!──夢と勇気あふれる、少年デクのまったく新しいヒーロー・ストーリーが、大きな共感と熱い支持を受けて第1位獲得! 作者の堀越耕平さんに創作の秘密をインタビュー。
取材・文=松井美緒
デクには自分の気持ちを乗せて描けています
第1位獲得おめでとうございます!
「ありがとうございます。とても嬉しいです。信じられなくて、あまり実感がわかないです」
特殊能力=“個性”が当たり前となり、ヒーローが職業として脚光を浴びる世界。“無個性”で生まれてしまった少年・緑谷出久(みどりやいずく)、通称デクは、それでもヒーローを志す。『僕のヒーローアカデミア』は、彼が最高のヒーローになるまでの物語だ。堀越耕平さんは、現在デビュー8年目。『週刊少年ジャンプ』での連載を続けているが、『僕のヒーローアカデミア』誕生は自身のつまずきがきっかけだった。
「この作品は、デビュー翌年に描いた読切『僕のヒーロー』がもとになっています。前の連載『戦星のバルジ』が短期で終了して、〈もうマンガ描けないや〉みたいな気持ちになってすごく落ち込んでしまって……。新しいネタも思いつかないので過去の作品を振り返っていたら、そういえば『僕のヒーロー』が一番描きやすかったなと。虚弱体質なのにヒーローになりたいサラリーマンが主人公で、当時あまり悩まず出てきたものをサラッと形にできた。〈よし、これでリベンジしよう!〉と思いました」
「僕のヒーロー」に始まり、今花開いている“ヒーローが日常にいる”という設定。特別な法律があったり、ヒーローが事務所に所属していたりとディテールまで作り込まれ、とても面白い。このインタビューは堀越さんの仕事場にお邪魔したが、ヒーローのフィギュアでいっぱいだった。スパイダーマンやバットマン、もっとコアなアメコミのキャラまで。この趣味がアイデアにつながっているのだろうか?
「発想のもとはあまり覚えてないんです。でも『X-MEN』みたいなマーベル・コミックの作品の影響は大きいと思います。ヒーローものはもともと好きで、サム・ライミ監督の映画『スパイダーマン』から入って、ほかのアメコミにも手を出すようになりました。フィギュアは、最初の連載『逢魔ヶ刻動物園』が始まった頃から集めています」
『僕のヒーローアカデミア』は、今までで一番楽しく描いているという。
「主人公のデクに、自分の気持ちを乗せて描けていると思います。デクのセリフや行動が、頭で考えずに自然に出てくるので。勢いで描いたものが正解だなと思えています」
デクは、とにかく魅力的な少年だ。強力な個性を持つ幼なじみの勝己にいじめられているが、決して夢を諦めない。将来のため、詳細すぎるヒーロー分析ノートを作る“行動派オタク”。そして、いざというときは危険を顧みず人を救う。弱さを内包しつつも、つねにそれを克服する強さがある。読者は彼に大いに共感し、同時に励まされる。弱いけどかっこいい、デクは次世代のヒーロー像だ。
「僕は、ヒーローのかっこよさは、戦闘じゃなくて人を救うことにあると思っています。デクもウジウジ迷わずに、他人を救けに飛び出せる奴として描いています。弱さという点では、デクってすぐ泣いちゃうんですけど、僕はそれを描くのが好きなんです。自分も涙腺が弱くて、緊張したりするとすぐ涙が出ちゃうので……。〈こんなとき僕も泣くな〉と思いながら、いつも描いています」
命の危険を顧みず、ヴィランから勝己を救ったデク。この姿を見て、オールマイトは心動かされた。涙目にも注目!
ウソの災害や事故ルーム(USJ)での人命救助訓練中に、オールマイトを狙うヴィランに襲われたデクたち。ヴィランのキャラクターデザインも素晴らしい!
ただの友達ごっこじゃない ヒーローを目指すライバルです
物語には、もう一人の主人公というべきキャラクターがいる。デクが憧れるNo・1ヒーロー・オールマイトだ。彼に見出されたことで、デクの運命は大きく変わる。「君はヒーローになれる」。オールマイトの言葉がデクを支えている。しかしこのオールマイト、実はある重大な秘密を抱えていて完全無欠の超人とはいえない。しかもかなり“面白いおじさん”。デクとオールマイトの関係、ただの師弟では終わらない予感が満々だ。
「少年マンガではギャグも大事だと思っているので、オールマイトのお茶目なところなんかは意識して入れるようにしています。今は「師弟」という感じですが、デクは成長するうえで、いつかは彼を越えないといけないのかもしれません。二人の関係やオールマイトの秘密についてはいろいろ考えているので、これから作中で描ききっていけたらと思っています」
オールマイトに厳しく鍛えられたデクは、プロを養成する超名門・雄英高校ヒーロー科に入学。本格的にヒーローへの道を歩み始める。この学校の設定が、これまた最高にそそられる。講師は皆プロのヒーロー。コスチュームには被服控除があり、クックヒーローがやっている学食もすごく美味しそう。学園マンガとしても楽しめる。そして何より、素敵な同級生がいっぱい登場する。明るくてかわいいお茶子さん、真面目な飯田君、勝己も一緒に入学した。勝己は無個性だったデクを見下し、少年マンガでは珍しいほどに自尊心むき出しの少年。しかし男らしさがにじみ出て、やっぱり魅力的だ。
「勝己は好きなキャラです。めちゃめちゃ性格が悪くて嫌なヤツに振り切って、デクとの関係が引き立つように作りました。2巻にある対人戦闘訓練でのデクとの対決はかなり気持ちを込めて描けたと思っています。読者の方には、轟も人気があるらしいですね。推薦入学した優秀な学生で、彼はかっこ悪いところが一つもないように描いています」
2巻の後半では、ついにオールマイトを狙う恐ろしい敵(ヴィラン)が学校を襲う。力を結集し立ち向かうデクたち。壮絶な戦闘シーン、デクたちの勇気、すべてに目を奪われ、もう非常に続きが気になる展開だ。
「デクと同級生は友達ごっこじゃなくて、全員ヒーローを目指すライバルなんです。友情が前提ではありますが、やっぱりいつかは争わないといけない関係だと思います。彼らの物語は自分でもまだわからない部分もあるので、これから頑張って描いていきたいです。ちょっとずつ変わっていくデクの心も丁寧に掘り下げたいので、ぜひ楽しんで読んでいただければと思います」