『屍人荘の殺人』以前の物語。明智恭介と葉村譲が挑んだ知られざる事件とは――!?
PR 公開日:2024/7/26
神木隆之介&浜辺美波&中村倫也で映画化された小説『屍人荘の殺人』(東京創元社)は、シャーロック・ホームズのような名探偵になりたくてたまらない先輩の明智恭介に目をつけられ……もとい助手役に抜擢された、葉村譲が主人公のシリーズ1作目。著者・今村昌弘氏のデビュー作であり、「このミステリーがすごい!」をはじめとする国内ランキングで4冠を果たし、続く『魔眼の匣の殺人』『兇人邸の殺人』とあわせて累計120万部を突破している人気シリーズだ。待望の最新作『明智恭介の奔走』(東京創元社)は、巻き込まれ型の葉村ではなく、ふりまわし型の明智の魅力を存分に堪能できる短篇集で、既刊を未読の人でも楽しめるつくりになっている。
ミステリ愛と知識の浅さに嫌気がさした明智が、既存のミステリ研究会ではなく、みずからミステリ愛好会をたちあげた目的は、同人誌を刊行したり蘊蓄を語りあったりすることではなく、推理力を鍛えること。ふだんは猫探しだの、葉村と「学食に来た人がどのメニューを選ぶか当てる勝負」だの、実に大学生らしいほのぼのした活動に勤しんでいるのだが、時折、本当に事件としか呼びようのない状況に遭遇する。
たとえばコスプレ研究会のサークル棟で泥棒が昏倒していた事件。無事逮捕されて事件は解決、のはずなのだが、泥棒いわく、あとからやってきたもう一人の侵入者と取っ組み合いになった結果だという。もし本当だとしたらもう一人の侵入者の目的は? コスプレ研からの依頼で明智は現場を調べ始めるのだが、事件は思わぬ目論見を暴き出す結果となってしまう。ほかにも、『屍人荘の殺人』でかつて明智が解決したと語られていた「宗教学試験問題漏洩事件」や、葉村と出会う前の明智が探偵事務所でバイトしながら推理力以前の、捜査のイロハと心の機微を学んでいく「手紙ばら撒きハイツ事件」など、長編シリーズとは趣の異なる謎を解決していく本作は、班目機関なる謎組織を追いかけながら生死にかかわる事件に巻き込まれていくシリーズ既刊とは違う魅力があり、安心して楽しむことができる。
とくに「泥酔肌着切り裂き事件」――酔っぱらって前後不覚になった明智が目を覚ましたら、なぜかパンツがびりびりに切り裂かれていて、ズボンは穿いた状態であったという、わけのわからない状況を解き明かしていく――では、史上最大にくだらないやりとりに、笑ってしまった。もし本作を最初に読んで、明智と葉村の関係に好ましいものを感じた方々は、ぜひ1作目も続けて読んでほしい。本作の軽やかさと、生死にかかわる事件との対比で、よりいっそう楽しめるはずだ。
ちなみに『屍人荘の殺人』では「中央グラウンド掘削事件」についても言及がある。いったいどんな事件だったのだろう。短篇集2作目の刊行も、待たれる。
文=立花もも