22年前の殺人事件を追う刑事。その容疑者は、かつて鬼刑事と呼ばれた父親でーー⁉︎愛と暴力が渦巻く警察小説『鬼哭の銃弾』
PR 公開日:2024/7/24
この世から「事件」と呼ばれるものは、決してなくならないのだろう。リアルな世界でも毎日のように痛ましい殺人事件や愚かな強盗事件などが報道される。中には、警察がどれだけ尽力しても犯人が捕まらない事件も。それは被害者やその家族以外の、多くの人を惑わし人生を狂わせていく。『鬼哭の銃弾』(深町秋生/双葉社)は、22年もの間未解決だった事件に翻弄された者たちの人間模様を描いた作品だ。
物語の始まりは、平和な金曜日の夜。閉店後のスーパーが一夜にして真っ赤な血で染められた。被害者は店長と女性店員2名の計3名。全員手足を縛られた後、フィリピン製のスカイヤーズビンガムと呼ばれるリボルバーで射殺された。「スーパーいちまつ強盗殺人事件」と称されたこの事件は犯人が見つからず、未解決事件として長きにわたって、捜査員を翻弄させた。
それから22年後。府中市の多摩川河川敷で起こった発砲事件で、かつての強盗殺人事件と同じリボルバーが使用された可能性が浮上する。使用された銃弾がリボルバーの線条痕と一致したのだ。警察としては、良くも悪くも未解決事件を解決に導くチャンスだが「22年未解決の事件が今になってなぜ……」と疑問を抱くものも少なくなかった。その理由は犯人の特徴にあった。リボルバーは細かな手入れを必要とするため、ほとんどの場合、すぐに使い物にならなくなる。しかし、本事件の凶器は長い間大切に手入れされ、使用されたということになる。なぜ今になって同じ凶器を使う必要があったのか。かつて捜査に携わっていた者たちは「警察として捜査することは必須だが、また翻弄されるのでは」と気が気でない。
そんな難解な事件に新たに携わることになったのは、警視庁捜査一課殺人犯捜査三課の日向直幸だ。彼もまた幼い頃、「スーパーいちまつ強盗殺人事件」に翻弄された人物の一人だ。翻弄された最大の要因は、元刑事で「鬼」と呼ばれた父・繁にある。繁は22年前の事件の捜査員で、事件解決に向けて誰よりも尽力していた。その反動とでもいうのだろう、捜査がうまくいかないと、毎回妻や直幸に常軌を逸するほどの暴力をふるっていたのだ。そうした背景からも、この事件は直幸にとって因縁が残るものなのである。
本書の読みどころは、解決に向けて捜査を進めていくなかで展開されていく息子と父の関係だ。すでに刑事は引退しているはずの繁だが、事件が真相に近づくにつれて彼がいまだに事件に関与している、むしろ犯罪を手引きした容疑者として浮上するようになる。直幸は長い間繁と会っておらず、彼の住居はもちろん今何をしているのかも知らない。ただ捜査を進めていくと、繁が事件について嗅ぎまわっていることが明らかになっていくのだ。
加えて、繁はなぜか警視庁の人間しか知らない捜査情報を握っていて、先回りしている節さえある……。そのせいもあり、直幸が行きつく先で繁が彼の邪魔をして、子どもの頃のように暴力をふるい、事件をかき回すシーンが何度も描かれる。
繁はなぜ22年前の事件を今になって追っているのか。なぜ直幸の邪魔をするのか。すべての真相が語られた瞬間の爽快感を、ぜひ味わってみてほしい。
文=トヤカン