パクりと模倣とリスペクト/絶望ライン工 独身獄中記㉓

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公開日:2024/7/24

絶望ライン工 独身獄中記

今週月曜日に公開した動画から、OP楽曲が変更になった。
正確には変更ではなく、リズムトラックの差し替えである。
これは私の意図ではない、そうせざるを得なかった理由がある。

強烈なビートが印象的だった元曲から随分と雰囲気が変わったと思うが、そのうち慣れるだろう。
元曲のビートはジェームス・ブラウンの「Funky Drummer」であり、それをサンプリングしたヒップホップ曲「Run’s House」である。
このビートは音楽好きなら誰もが知っている、有名なサンプリング・ビートである。
ヒップホップ問わず多くのアーティストがこのビートを使用した曲をリリースしてきた。
私も好んで使わせてもらっていたが、この度楽曲の権利を保有するユニバーサル・ミュージックより物言いがついた。

貴殿の動画の導入部に使用されている楽曲は、我々が権利を保有する著作物のメロディー、及び歌詞を使用しています。
規定の著作権料をお支払いいただくか、該当部分の差し替えをお願いします。

そんな内容のメールが動画投稿サイトのコンテンツIDメッセージとして届いた。
メロディー?歌詞?色々と思うこともあるが、これには従うしかない。
ユニバーサルよ、今までお世話になりました。ありがとう。
動画で使用できる楽曲はいくつかのパターンがある。
レコード会社や信託団体(厳密には違うけどわかりやすくこう書く)が動画投稿サイトと包括契約を結んでいる曲。
著作者の独自ライセンス(厳密には違うけどわかりやすく)で公開されている曲。
そして自作曲(厳密には違うけど)です。

この辺りは厳密に掘れば掘る程難しく、危険なテーマなので多くのミュージシャンは触れたがらない。
カルチャーとしてサンプリングや「ネタもの」は間違いなく音楽シーンに存在するが、表立って否定も肯定もせず、皆上手にここまでやってきたのだ。
レコード屋にはサンプリング・ビートの12インチが並び、楽曲のサビをそのまま使用した危ないトラックは「出所不明の海賊版(ブートレグ)」という扱いで白いシールを貼って売られた。
それらはホワイト・レーベルと呼ばれ、プロモ盤という名目でクラブシーンを大いに賑わせた。
レコード店員が手書きしたカードだけを頼りに、DJ達はヤバいトラックをディグりに渋谷へ出掛ける。
そんな時代を自分は体験している。
Born Sli〇pyネタ激ヤバトラック!! マストバイ!!

よくあるパクり曲、似ている曲の判別も難しい。
7音階の組み合わせしかないのだから、同じ配列の曲も出てくるだろう。
配列にいちいち権利を付与していたら大変なことになる。
ド、ソ、ドという並びは全部「ツァラトゥストラはかく語りき」になっちまう。
そもそも音階を使っている時点で先人達の模倣だし、そういった意味ではすべてオリジナル要素で構成された楽曲はもう2024年の地球には存在しない。
ノイズミュージックや現代音楽ですらそれらの模倣である。

そういった背景もあり、私はパクりや模倣には寛容な姿勢です。
何の話をしているかというと、自らを題材とした悪辣コンテンツ「絶望ライン工ch」のことを言っている。
私の動画配信は良くも悪くも多くの模倣者を出し、そして彼らは一切繋がることなく今日も動画を投稿している。
よく真似をされるのはサムネイルであるが、私も誰かの模倣をしてきたので特に何も思わない。
内容や構成を真似てくださる方もいて、ああ、よく観てくれているんだとむしろ嬉しい気持ちだ。
色を少し変えただけの同じようなサムネが並ぶとゾっとするが、皆でこのジャンルを一緒に盛り上げていこうと前向きに捉えています。
それは自分、そして彼らのコンテンツへの愛やリスペクトを感じるから。
動画投稿がいかに大変か身をもって知っているから。

でもそうじゃない場合もある。
何の捻りもなくそのまま真似ただけのサムネには下品な言葉が並び、何故か検索に出てくるなと思って調べると #絶望ライン工 のテキストが隠しタグとして巧妙に紛れている。
それだけではなく、私のチャンネル名がコメントできない仕様になっていたり、ブロックされたりする始末だ。
内容はおっさんが飯を食いながら己の惨状を喚いているものが大半で、愛もリスペクトも何も感じられない。
これらは残念ながら悪質なパクりであると考える。

つまり何が言いたいかと云ふと、私は愛とリスペクトをもって作品を作っています。
ユニバーサル様、ご連絡お待ちしております

<第24回に続く>

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絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
41歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。