江戸時代の猫はこんなに可愛い!絵師と怪猫のコンビが暮らす江戸の情景を描いた『猫絵十兵衛 御伽草紙』
PR 公開日:2024/8/5
怪猫と人間を題材にした物語は数多く存在し読まれている。その組み合わせに慣れ親しんだ人も多いのではないだろうか。
猫をテーマにした漫画雑誌 『ねこぱんち』で2007年から連載している『猫絵十兵衛 御伽草紙』(永尾まる/少年画報社)もその内の一つである。
本作は、人間を描くことを生業にする絵師が主流の中、人物画が苦手という理由で鼠除けに効く「猫絵」を専門にしている十兵衛が、怪猫のニタと三笠長屋(別名・猫丁長屋)に暮らす日々を描いた人間と猫又のバディものであり人情物語だ。
疲れや寂しさを感じたときに本作を読むと猫の可愛らしさ、人の温かみに癒されていく。
ニタが持つ妖力を十兵衛が描いた絵に吹き込み、身近で困っている人・猫がいるときに利用して解決に繋げるというのが主な流れだが、毎回その力だけで全てが解決する訳ではない。力を使うことがあったとしても、日々を懸命に生きる猫や人の行動を後押しする程度の助太刀だ。結局は当人(当猫)の勇気と行動力が決め手となり結果に結び付く、その様子が見ていて清々しい。
また「猫=人が苦手、関心がなさそう」という印象があるが、作中の猫は人に恩や愛情を感じたり義理堅かったりと人間臭さや愛嬌がある。人のために何かを成そうとするも失敗してしまう情けない場面ではくすりと笑えるし、成しえた果てに別れや犠牲を伴う話には思わず涙してしまうこともしばしばだ。
そしてエピソードごとに新たな人や猫が数多く登場し、唯一無二の人と猫による無数のドラマが生み出されていき、その面白さが読者を飽きさせない。
「十人十色 人は面白いな 呆れるぐれぇ生きちゃあいるが 同じ人に会った例しがねぇ」(第十六話)と感慨深く話すニタの台詞があるのだが、この言葉は作品の魅力をそのまま表している。
もちろん、十兵衛とニタの近くにいるキャラクター達は、回を重ねるごとに関係性の進展があったり成長したり、今まで表に出なかった姿を見せてくれたりする。ときにニタがヒト型に姿を扮することもあるのだが、中々の色男なので狸と見間違われる普段の姿とのギャップに心を掴まれる読者もいる筈だ。
個人的には過去のトラウマがきっかけで猫が苦手になった侍の弥三郎が徐々に猫を克服していく過程を見るのが好きなのだが、作品のファンの中には推しの人物・猫を見つけて動向を追っている人も多いのではないだろうか。それ程本作のキャラは生き生きとし魅力に満ち溢れているのである。
現在、単行本が20巻以上発行されているが、基本的に1話完結でどこから読んでもすんなりと世界観に入ることができる読みやすさがこの作品の良さである。巻ごとに区切り良く話がまとまっているので是非自分のペースに合わせて読んでもらいたい。猫好きはもちろん、猫派じゃない人が読んでも満足すること間違いなしだ。
人と猫の日々の営みを描く『猫絵十兵衛 御伽草紙』、江戸の風情溢れる情景と共にとくとご覧あれ。