『僕らはみんな河合荘』どこまでも濃厚な人材のるつぼが生みだす下ネタとトキメキの闇鍋ラブコメディ!
PR 公開日:2024/8/6
「気になる女の子とひとつ屋根の下」。青春時代の妄想のなかでは誰もが一度はする、かなり手あかのついた部類の妄想ではないだろうか。ところが、実際にそんなうらやましい状況になったにも関わらず、周りの同居人たちのはじけっぷりのせいで主人公がどこか「かわいそう」にも見えてくる。
『僕らはみんな河合荘』(宮原るり/少年画報社)は、2014年にはアニメ化もはたした人気作品。ひとクセもふたクセもある住人たちが集う下宿「河合荘(かわいそう)」を舞台にした、ライトながらも下ネタも満載なラブコメディだ。
主人公である高校生、宇佐和成(うさ かずなり)は、親の転勤について行かず、食事つきの下宿「河合荘」でひとり暮らしをすることに。そこには同じ高校の先輩であり、ヒロインとなる好みの女の子、河合 律(かわい りつ)も住んでおり、思わぬ出会いと新生活に宇佐は胸を高鳴らせる。しかし他の同居人はみな、あまりにもクセの強い人ばかりで、想像していた平穏な高校生活からは程遠い毎日がはじまっていくのだった。
主人公の宇佐は「変ショリ」というふたつ名を持っている。アクが強く、周囲からうとまれるような人とも上手くつきあい、絶妙にいなしてきたことから「変態処理班」と呼ばれ、それが短くなって定着したあだ名だ。
近隣との接点の少ない、ごく普通のワンルームマンションのような住居であれば、彼は、憧れの先輩に恋をする目立たないひとりの高校生にすぎなかったかもしれない。しかし河合荘では彼の価値は一変する。なにせ、ここの住民は誰ひとりとして「普通」の人はいない。その異名にこめられた才覚を遺憾なく発揮することができるのだ。
ルームメイトのボサボサ頭に作務衣姿の無職男は、ののしられたり殴られたりすると喜ぶ性癖の持ち主。いっけんスタイル抜群の美人OLかと思わせる女性は、大酒飲みで男運がなく、下ネタ大好きでデリカシーの欠片もない。小悪魔系といえばかわいいが、恋愛沙汰で所属サークルを次々に破壊してきた自他ともに認めるサークルクラッシャーなど、とにかくその面々は個性に富んでいる。
ヒロインである律ですら、学校の行き帰りにも本を手放さないような偏愛っぷりをみせ、本を読んでいるときに声をかけられると、けわしい顔になってしまうといった具合だ。そんな面々が矢継ぎ早に下世話なボケをはさみこんでくるのだから、まったく休まる暇がない。
そんな奇抜なキャラクターたちに対応し、いいように翻弄される宇佐という「普通」の存在が中心にいることで、私たちは河合荘の異質さを感じとり、笑いながらその「かわいそう」な状況を見つめることができるのだ。
また、そんな潤滑油のような存在が中心にいることが、登場人物に徐々に影響を与えていく。河合荘の住人だけでなく、そのまわりの友人もふくめ、すこしづつ角がとれ、いい方向に変わりゆく人間関係を見ることができるのも河合荘の魅力のひとつだろう。
とはいえ『僕らはみんな河合荘』はあくまでもラブコメディ。宇佐と律の恋愛がメインなのだが、つぎつぎに恋のライバルも出てくるし、周りにそんな濃いメンツがそろっていれば順調に進んでくれないのは火を見るよりも明らかだ。だからこそ右に左に蛇行するその恋の模様を、ドンと構えて長く見守ることができるのもまた確かなのだ。
内容、量ともに濃密なギャグ漫画として楽しむもよし。ラブコメとして楽しむもよし。あらゆる方向からの需要にこたえることができる濃い人材が河合荘にはそろっている。