6作品連続「このミス」ランクインの阿津川辰海氏が仕掛けるトリックを見破れるか!? 最高峰の謎解き×警察ミステリが誕生

文芸・カルチャー

公開日:2024/7/26

バーニング・ダンサー"
バーニング・ダンサー』(阿津川辰海/KADOKAWA)

 もし、地球で百人にだけ、突如、超能力とでも呼ぶべき特別な力が芽生えたとしたら、この世界はどうなるだろうか。きっと能力者の中には、「自分は選ばれし者だ」と得意になる人がいれば、突然の力に不気味さを感じる人もいる。それに、世の中は、善良な人ばかりではない。手にした力を世のため人のために使おうとする人間がいる一方で、犯罪に利用する人間も出てくるに違いない。能力者vs.能力者——それは、どのような戦いになるのだろうか。想像しただけで、どうしてこんなにもワクワクさせられるのだろう。

 そんな心の高揚を感じながら、読み始めたのが『バーニング・ダンサー』(阿津川辰海/KADOKAWA)。能力者の犯罪を追う、能力者の捜査を描いたミステリだ。さすが、6作品連続「このミステリーがすごい!」ランクイン&「本格ミステリ大賞(評論部門)」受賞の、阿津川辰海氏の作品。至高の異能バトルと、待ち受ける大どんでん返しは、息つく暇も与えてくれない。

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 物語の舞台は、突如、地球に、百人の能力者「コトダマ遣い」が誕生した世界だ。百人のコトダマ遣いたちは、アトランダムに選ばれ、それぞれ一つのコトダマを授かっている。たとえば、「燃やす」なら発火能力、「透ける」なら透明人間になる能力、「爆ぜる」なら爆破能力というような力で、一つのコトダマを持つ人間は、地球上に、必ず一人だけらしい。違法捜査も厭わない“猟犬”、元捜査一課の刑事・永嶺も、「入れ替える」という力を遣えるようになったコトダマ遣いのひとりだ。ある時、彼は、コトダマ遣いが起こした犯罪を捜査するべく新設された「警視庁公安部第五課 コトダマ犯罪調査課」の班長に任命される。7人の捜査員はすべてコトダマ遣い。集まったメンバーを見て、永嶺スバルはショックを受ける。交通課から来た姉妹、田舎の駐在所から来た好々爺、机の下に隠れて怯える女性、民間人を誤認逮捕しかけても悪びれない金髪男……。メンバーは捜査未経験者が多数を占めており、警察学校を出ていない者まで含まれていたのだった。さらに、着任早々、チームに異様な死体の事件の報告が入る。全身の血液が沸騰した死体と、炭化するほど燃やされた死体。このチームで、凶悪な殺人犯を捕まえることなどできるのだろうかとスバルの頭には不安がよぎる。

 手に汗握る展開の連続で、特に能力者同士のバトルの迫力は圧巻。どんな能力をどうやって駆使して戦うのか。ただ力任せに戦うわけではなく、それは頭脳戦だ。たとえば、突然コトダマ遣いに出くわしたとて、相手の能力がどのようなものであるか、最初は分からない。目の前で起きる現象から推理し、それに対応する方法を考えねばならない。さらには、それぞれの能力には、こういう行動をしないと発動しない、こういう条件下では発動しない、という「限定条件」が存在する。相手の能力を見抜き、それに自らの能力でどう戦うか瞬時に戦略を練る必要がある。さらには、他の能力者と力を合わせれば、できることは格段に増える。捜査員たちは、どのように力を掛け合わせて、殺人犯を追い詰めていくのか。彼らとともに「次はどう戦うべきか」と思考を巡らすうちに、読み手にまで緊張感が高まってくる。

 異能力者のバトルを描いた物語は、数多くあるが、この物語ほどのどんでん返しが待ち受けている作品は他にはないだろう。ジェフリー・ディーヴァーを彷彿させるような、どんでん返しの連続に、一体この物語がどこにいきつくのかと胸が高鳴る。特に、終盤の大どんでん返しには呆然としてしまった。「まさか、最初から騙されていたということ……?」と慌てて、最初から読み返すことになったのは、絶対、私だけではないはず。犯人の嘘は、すべての始まりから仕込まれているのだ。あなたはこの特大の嘘に騙されずにいられるだろうか。阿津川マジックが炸裂する、最高峰の謎解き×警察ミステリに、ぜひ驚かされてほしい。

文=アサトーミナミ

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