絵本作家・柴田ケイコ「作中の食事は息子が嫌いだったもの」 まるみキッチンとの対談で、子どもの好き嫌いを語る【「パンダのおさじ」18万部突破インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2024/7/31

柴田ケイコさん、まるみキッチンさん

 絵本「パンダのおさじ」(ポプラ社)シリーズの作者である柴田ケイコさんと、レシピ本『やる気1%ごはん』(KADOKAWA)の著者であり、料理家のまるみキッチンさん。「パンダのおさじ」シリーズ18万部突破記念として、料理を表現するという共通点を持つ2人が対談しました。

 柴田さんによるシリーズ第2弾は、子どもの食べず嫌いをテーマの一つとした『パンダのおさじとふりかけパンダ』。いっぽう、4歳と2歳のお子さんを育てるまるみキッチンさんは、お子さんの食べず嫌いの真っ最中…。子どもに食事を楽しんでもらうための工夫や、親の“やる気がない”ときの対策などの話で盛り上がりました。

advertisement

●無心になっているときにアイデアが浮かぶ

——今回は柴田さんから、まるみキッチンさんに対談の依頼をされたそうですね。

柴田ケイコさん(以下、柴田):「パンダのおさじ」シリーズが料理関係のお話なのと、私自身が食べることがすごく好きで、でも料理が得意じゃないんです。まるみキッチンさんのように、おいしいものをストレスなく簡単に作れるなんて素晴らしいじゃないですか。料理家さんへの憧れもあるんです。

まるみキッチンさん(以下、まるみ):嬉しいです。ありがとうございます。

柴田:私、絵本のアイデアが料理中に浮かぶことも多いんですよ。

まるみ:無心で料理をしている間って、すごく集中力が上がると聞いたことがありますね。

柴田:シリーズ1冊目の『パンダのおさじとフライパンダ』には、まさしく料理中に思い浮かんだ場面があるんです。料理をしているときに、ワーッとフライパンから小さいパンダが出てきたら面白いなと思って。料理ができて、フタをあけた瞬間って、すごくいいじゃないですか。

まるみ:テンションが上がりますよね。

柴田:上がりますよね? そのときにパッとアイデアが浮かんで…。料理にもいろいろな工程があると思いますけど、一番テンションが上がるのはどんな瞬間ですか?

まるみ:それこそ、お鍋や炊飯器のフタをあける瞬間とか。レンチンもよく使うので、レンジをあけるときもテンションが上がります。

——フタをあけたときの感動と喜びがありそうですね。絵本は描き直す過程があると思いますが、料理も何度か試作をするんですか?

まるみ:僕の場合は作りながら味を調整するので、割と考えついたまんま、レシピになるんですよ。撮影と試作を兼ねている感じで。もちろん、“いけるやろ”と思っていたら、うまくいかんかった、ってこともありますけど(笑)。絵本も描き直すことがあるんですか?

柴田:ありますあります。フライパンからパンダが出てくるシーンもそうでしたけど、私は絵から思いつくことが多いので、絵はいいのにストーリーが繋がらないとか、考えてみたけどやっぱり違う、ということがあって。描き直しもあるし、編集者さんと話して変えるときもあるし、その繰り返しですね。それで、どんどん削り落としていく。

まるみ:料理も同じですね。思っていた通りにならないこともあるので。

柴田:けど、面白いですよね。料理って、実験みたいで。

まるみ:ほんとに、理科の実験みたいです。レンチンの簡単レシピなんかだと、食材と調味料を全部あわせてからレンジのボタンを押すんですけど、途中で味見ができないから、完成するまで味がわからないんですよ。“うまくいくんかな?”とドキドキしながら待っています。

柴田ケイコさん、まるみキッチンさん

●しんどいときは料理の手間を削ってもいい

柴田:私の世代ってまだ、SNSではなく本でレシピを見るんですよね。

まるみ:本のほうが見やすいって僕も思います。僕の動画は1分以内と短いものだから、その時間内で料理をするのは難しいし、一回一回止めるのも面倒。本だと確認しながら作れるから、レシピと本は相性がいいのかなと思います。

柴田:だからほんと、お会いしてみたかったんです(笑)。簡単にできるレシピ本って昔はなかったんですよ。レシピ本と言えば、だいたい細かく丁寧に書かれていて、料理が上手ならいいんですけど、得意じゃないので…。

まるみ:僕も料理が得意なわけではなく、料理の手間を削りたいところから入ったんです。レシピに文字がブワーと並んでいたら読むだけでも大変だから、ポイントだけ書くようにしていますね。

柴田:どういうきっかけで料理を始めたんですか?

まるみ:ダイエットのために始めたんですけど、料理をほぼしてこなかったので、料理ってめっちゃ時間がかかるなと。レンジで時短できることに気づいてからは、SNSにアップして、そこで反響があり、KADOKAWAさんからレシピ本のお声がけをいただきました。(KADOKAWA刊『やる気1%ごはん』)

——料理が上手になるまでに苦労もあったのでは?

まるみ:じつは、いまだに上手ではないんですよ。千切りもできないから、スライサーやピーラーを使っていますし。パック野菜を買うことも多い。なので、技術というより、アイデアとして僕のレシピを試してもらえるといいのかなと。やっぱり子育てをしていると、普段しんどいときのほうが多いと思うんですよ。そういう人には、手間を省いた簡単レシピをおすすめしています。

柴田:私もしんどいときは、塩ラーメンの袋麺に野菜をどささっと入れて、これでいいやって…(笑)。

まるみ:いいですよね。もし飽きてしまったら、僕のレシピでアレンジしてもらえたら。手軽に作れるように一品の食材の数を抑えてあるので、「家にある野菜を使ったら、おいしかったです」と言ってもらえることが多くて。食材のアレンジに使いやすいレシピなんですよ。

柴田:冷蔵庫にあるもので作れる人は、本当にすごいなって思います。

まるみ:それが、僕のレシピは、余っている食材から簡単なものを探せるんですよ。買い出しもしないでいいように、食材も調味料も、家にありそうなものでシンプルに考えています。

柴田ケイコさん、まるみキッチンさん

●食べず嫌いの対策は?

——「パンダのおさじ」シリーズ第2弾の『ふりかけパンダ』では、子どもの好き嫌いが描かれていますね。

柴田:前作を作ったときに2案考えていて、その一つが「ふりかけ」だったんです。編集者さんとお話しするなかで、お子さんって好き嫌いが多くて、親御さんが困っているから、そういう人たちが共感できるようなお話にしよう、ということになって。

——ふりかけは…子どもが喜んで食べますよね。

柴田:そう。大人もふりかけが大好きで、お弁当にかかっていないとテンションが下がるくらい(笑)。

まるみ:おいしいですよね。子どもは特に見た目が大事だから、彩り豊かなふりかけをかけるだけで、ごはんを食べることがあって、うちの4歳と2歳の娘もごはんにかけています。

——ご自身が考案された「まるみスパイス」も、お子さんたちの食卓に?

まるみ:はい。うちの子は好きで、ふりかけ代わりに使っていますね。毎食に等しいくらい、よく食べています。「パパ、ごはんにスパイスかけて」って持ってくるんで、かけてあげて。

——優しいお父さんぶりが伝わります…。お子さんの好き嫌いはありますか?

まるみ:今、絶賛、好き嫌い中です。以前は何でも食べたんですけど、味覚がはっきりしてきたのと、知恵がついてきて、野菜っぽいものや緑っぽい葉っぱ系をものすごく嫌がるんです。ちょっと苦みがあるのを覚えたんでしょうね。それこそ見た目で判断することが多いので、見た目がよければピーマンを食べたりするんですけど。

柴田:食べず嫌いが多いですよね。

まるみ:そうですね。成長してきたんやと思いますけど、親としては食べてほしいから、どうしたもんかなって。

柴田:ほんと、みなさんの悩みの一つだと思います。栄養があるから野菜を食べてほしいんだけど、うまく食べさせるアイデアが思い浮かばないから、ハンバーグに無理やり入れて隠すくらいで…。

まるみ:僕も同じです(笑)。カモフラージュをして食べさせますね。大人ならサプリでビタミンを摂れますけど、子どもは食材から摂ったほうがいいと思うんで。

柴田:うちの息子はずっと、しいたけ系とナスがダメなんですよ。ナスなんて、とっても料理に使いやすいのに。

まるみ:ナスだと、みじん切りにしてカレー、ですかね。あの独特の色を見えなくして「ナス感」を消すのがいいかなと。しいたけはグニグニ感が苦手な子もいるだろうから、ミンチに入れるとか。ただ、一回食べてしまえば、不思議なことに「おいしい」って言うことがあるんですよ。だから、親としては、食べてくれるまで諦めないようにしています(笑)。

柴田ケイコさん、まるみキッチンさん

●食事の楽しさを知ってもらうことが大事

——絵本にも、ぱこちゃんがパンダの料理を食べて「たべてみると、とってもおいしい」というセリフがありますよね。残念ながら、お母さんが作った栄養バランスの良さそうな食事は食べてくれないのですが…。

柴田:ぱこちゃんのお母さんが作っている食事は、まさに私が息子の小さい頃に出していて、息子が嫌いだった食事(笑)。当時は育児1年生で、何を作ったらいいのかわからなくて、とりあえず、緑のほうれん草、オレンジの人参…みたいに、いろいろな色の食べ物を入れて、おかずを3つ出すことを目指していたこともありました。けど、食べない。魚も食べない。

まるみ:魚はクリーム煮にすると食べやすいかもしれませんね。じつは僕も魚がずっと嫌いやったんですけど、妻と一緒に外食で食べたときにおいしく感じて、魚が食べられるようになったんです。魚の生臭さがうまく調理されていたのと、魚のおいしさと楽しい思い出が結びついて残ったんでしょうね。

——苦手な食べ物でも、給食だとなぜか食べられる、と聞くことも多いですね。

まるみ:うちも、給食は残さないで食べているらしい。

柴田:家ではわがままになって食べないんだけど、給食はみんなと一緒に食べる楽しさみたいなものがあるんでしょうね。お外に出て、お日様の下でも食べる。結局、気分なのかな。

まるみ:食事が楽しいものって思わせてあげるのはすごく大事なのかなと。うちの夕飯は、1時間くらいかけて、しゃべりながら食べるんです。保育園の話を聞いたり、僕が妻に仕事の話をしたり、雑談ですけど。それが楽しいのか、うちの子はけっこう食いしん坊ですよ。好き嫌いはあるので困ったもんですけど。

柴田:うちなんか、早く食べて!ってなっちゃいます(笑)。朝なんて特に。でも、そういうのがいいんでしょうね。食事の楽しみを感じられる大事な時間ですね。

まるみ:誰と食べるのかも、僕は大事にしています。外食することはあまりなくて、1人ならコンビニで済ませちゃいます。家族なり、誰かと一緒に行ったほうが思い出にも残るかなと。ただ、ほんましんどくて料理は無理…っていうときは外食に頼ってもいいと思うんですよ。

柴田:本当ですよね。毎日料理をしていたら…。私はほぼ家で作業しているので、外食はスペシャルな感じがして。たまにですが、おいしいお店を予約して出かけます。食事目的のお出かけですね。

柴田ケイコさん

●「楽しい」と「食」を結びつける

——絵本では、ぱこちゃんの食事の時間を楽しくするために、パンダのおさじが現れます。「アポパイ ポコパイ…」という呪文を教えてくれるのですが、今作(『ふりかけパンダ』)では呪文が少し変わっていますね。

柴田:ふりかけなので、途中で「フリフリフリ」というフレーズを入れました。

まるみ:この踊り、保育園で教えてもらっているのか、娘たちが大好きで。いつも叫びながら踊るんですよ。一晩中踊っているときもあります(笑)。

柴田:ありがたいです! 踊りを入れたいっていうアイデアが出て、私は落語が好きなんですけど、「死神」っていうお話に呪文が出てくるんですね。気分が上がればごはんを食べられるかも…ということで、呪文を入れたんです。

まるみ:子どもはこういうリズムや振り付けが大好きだから、食べるのが苦手な子やったら、大好きなリズムと食事が結びついて、ごはんが楽しくなるやろうとすごく思いますね。その後のページにパンダのごはんが描かれていますけど、ごはんを可愛くするのもいいと思いますね。ごはんをただ盛るんじゃなくて、おにぎりにするだけでも、食べることがあるので。

柴田:“親がやってくれた”っていう嬉しさもたぶんあると思うんですよ。親が自分のために作ってくれたところに愛情を感じてくれるというか。私も最近、旦那が晩御飯を作ってくれるようになったんですけど、丁寧に作ってくれると“あぁ、ありがたい”って思いますから(笑)。

まるみ:人が作ってくれたごはんが一番おいしいですよね(笑)。同じ調味料で作っていても、なぜかおいしく感じる。

柴田:やっぱり人の想いが入っているからだと思います。そこも料理の素晴らしさで。作るほうも「食べてね」って想いを込めながら作っているし、きれいに食べ終わったお皿を見るのがすごく好きです。

柴田ケイコさん、まるみキッチンさん

●やる気のないときは…「やりません」

——まるみキッチンさんのレシピ本のタイトルは『やる気1%ごはん』。柴田さんは「やる気が出ない」とき、どうされていますか?

柴田:やりません(笑)。逆に、自分の好きなことをやりますね。ずっと家の中で書いているので、外に出て映画を観ることもあるし、ランアンドウォークをしたり、時間があれば山に行ったり。山の上で食べるごはんが大好きなんですよ。

まるみ:頂上で食べるカップ麺がめっちゃうまいって、友だちから聞いたことがあります。

柴田:そう。キャンプ用のダッチオーブンに一時期はまっていて、要は圧力鍋なんですけど、それを使って料理を作り、外の空気を吸いながら食べると本当においしい。いつも家という箱の中で書いているからでしょうね。おいしいものを食べるときが一番幸せ。

まるみ:いいですね。普段の1.5倍、いやそれ以上においしく感じそう。

柴田:いつも割と締め切りに追われている状態だから、それをしないと“わあっ!”ってなっちゃう。余裕がないといいアイデアも浮かばないので、パンって張った糸を時々ゆるめてあげるというか。そういう時間を自分で作らないといけないなって最近は思います。あとはスケジュール管理も大事(笑)。

まるみ:そういうこと、ありますよね。僕も一冊のレシピ本に500品載せていますけど、それに加えて、SNSにも毎日投稿しているので、頭の中はレシピのことばかり。僕の場合、お風呂で体洗っているときなどにアイデアを思いつくので、体を拭きながらメモしたりして。「ゆるめる」という話を聞いて、確かに…と思いました。あまり意識してなかったんですけど。

柴田:毎日はすごいですね。アイデアがどんどん出てくるのが羨ましいですよ。

——最後におふたりから、家族の食事の楽しみ方についてご提案いただけませんか?

柴田:まずは家族で食卓を囲むことが大事かなと思いますね。つまらない話をしながらでもいいので(笑)。その日の愚痴でもいいし、音の出る会話をして。料理が苦手な方もいると思いますけど、簡単なものでいいから作ってあげると、子どもは親が作ってくれたことに喜びを感じてくれるのかなと。子どもが育ってくると食事の時間が合わせにくくなるので、幼児期や小学生など、みんなが揃う時期に食事を楽しんでほしいですね。

まるみ:親が楽しそうに食べている姿を見せることも効果的なのかなと思います。大人が「おいしいおいしい」って食べていると、苦手な野菜でも「ちょっと頂戴」って言うことがありますし。露骨に苦手な食材は、可愛い盛り付けにしてもいい。楽しいものと食を結びつけることが、ごはんを好きになるきっかけになると思います。

取材・文=吉田あき、撮影=金澤正平

あわせて読みたい