結城真一郎『バトル・ロワイアル』が小説家の原点。影響を受け、卒業文集にクラスメイトが殺し合う物語を書いた【私の愛読書インタビュー】
公開日:2024/8/8
さまざまな世界で活躍する著名人の方にお気に入りの本を紹介していただく連載「私の愛読書」。今回登場いただくのは、初の児童書『やらなくてもいい宿題』(主婦の友社)を刊行された結城真一郎さん。子どもの頃に大好きだった物語や作家人生に影響を与えた1冊などを伺いました。
子どもながらにオチの秀逸さに唸った『花のズッコケ児童会長』
――子ども時代に好きだった本として「ズッコケ三人組」シリーズをあげていただきました。ハチベエとハカセにモーちゃん。3人の小学生男子が活躍する「ズッコケ三人組」シリーズですが、小学校の図書室にはたいていシリーズが置いてありましたよね。
結城真一郎さん(以下、結城):大好きでした。とくに『花のズッコケ児童会長』は子どもながらにオチの秀逸さに唸りましたね。ハチベエが児童会長に立候補して選挙戦を勝ち抜こうとする話なのですが、誰も傷つかないけれど苦みがあって、こういう物語のオチとしてはいちばんいいだろう、なんて偉そうなことを考えていました(笑)。
――結城さんにとって初の児童書となる『やらなくてもいい宿題』も、男女三人組が主人公ですよね。
結城:影響されたというほどではないけれど、2人の世界を完結させるよりも、3人いるからこその広がりを描いたほうが物語はおもしろくなる、という実感があるのでしょうね。あと、『やらなくてもいい宿題』を書くにあたっては、なるべく「子ども向け」ということを意識しないようにしていたんですよ。それは自分も子どもだからといって侮られることをよしとしなかったからですが、「小学生向けの小説なのに、こんなことまで書いちゃうんだ!」と感じる展開が多かったのも「ズッコケ三人組」シリーズが好きだった理由の一つです。
――個人的には『うわさのズッコケ株式会社』が印象的で、かなり本格的に株式会社の現実を描いていたのが衝撃的でした。
結城:『花のズッコケ児童会長』も、選挙のシビアさをしっかり描いていますよね。一方で、『参上!ズッコケ忍者軍団』における、秘密基地をめぐる攻防戦みたいに、子ども心をくすぐるエピソードが満載なのも魅力で。一枚絵とともに表現されたその場面に魅了され、友達と大量の水風船をつくって公園で投げ合い、再現したことを覚えています。
小説家の原点となった作品『バトル・ロワイアル』
――『バトル・ロワイアル(上・下)』は、中学のクラスメート全員が殺し合う物語。中学の卒業文集で二次創作を書いたとか。
結城:そうなんですよ。中高一貫校に通っていたので、基本的には全員がエスカレーター式に高校進学できたんですけど、僕が所属していたサッカー部の部員全員がなんらかの条件に引っかかってしまい、生き残った奴だけが進学できるという設定で。中学校舎の敷地内で殺し合いをするという、まったく褒められたものじゃない小説を書きました。
――卒業文集に掲載する内容じゃないですね(笑)。
結城:ひとり1ページの作文を書かなきゃいけなかったんですけど、みんな変わらず一緒だから、卒業と言われても特別な感慨がなかったんですよね。面倒だからお前がみんなのぶんのページをもらって小説でも書いちゃえよ、と友達に言われて、おもしろそうだなとなんとなく書き始めた。その直前に読んでいたのが『バトル・ロワイアル』だったので、多分に影響を受けてしまったというわけです。数十ページで終わるはずが400~500ページになり、結果、卒業文集が2冊になってしまいましたけどね。
――上下巻ですね!(笑)
結城:『バトル・ロワイアル』は、不謹慎で決して褒められた作品ではないけれど、その不謹慎さも含めて抜群におもしろかった。自分が思っていたよりも文学というのは度量が深いジャンルらしい、と知って初めて小説を書くということにも興味をもったんです。結果的に、卒業文集の評判がよかったことが、小説家としての原点になってもいるので、僕にとって思い入れの深い作品ですね。一言の物言いをつけてくることのなかった先生方の度量の深さにも感謝です。
伊坂さんの筆力には圧倒されるばかり『死神の精度』
――続いては伊坂幸太郎さんの『死神の精度』。音楽を愛する死神・千葉が、七日間の調査で対象者を死に導くか、保留にするかをみきわめる連作短編集です。
結城:死神という設定を、よくもまあこんなにも手を変え品を変え生かすことができるものだ、と最初に読んだときは感激してしまったんですよ。ミステリーとしての物語構成も巧みで、小説家になった今になって読み返すと、改めてそのすごさに感じ入ってしまいます。あと、これは伊坂作品に共通することなのですが、言葉遊びをするような登場人物のセリフが好きなんですよ。
――たとえば、思いつくものはありますか?
結城:そうですね……違う作品で恐縮なのですが『陽気なギャングが地球を回す』で「一を聞いて十を知るとはあいつのことだな。一を聞いて十を知って、それでもって一から十の間に素数がいくつあるかとかそんなことまで先回りして考えるような奴だ」というセリフに、声を出して笑ってしまったんですよね。これまでいろんな本を読んできましたが、そんな体験は初めてで。一を聞いて十を知るという言葉はもちろん知っていますけど、その先の描写をすることで、よりいっそうその人のキャラクター性が浮かび上がってくるし、発言者の教養もうかがいしれる。こんなふうに、たった一つのセリフに何重もの意味をしのばせることができるのだと衝撃を受けると同時に、あらゆる作品で心に刺さるフレーズを生み出せる伊坂さんの筆力に圧倒されるばかりです。『死神の精度』も、そのほかの作品も、何度読み返しても飽きることはありませんね。
取材・文=立花もも 撮影=島本絵梨佳
<第54回に続く>