儒烏風亭らでんの落語がたり!③『死神』後編/男を唆した死神の目的は?
更新日:2024/9/12
半信半疑の男でしたが、いざやってみると死神の言った通り、足元の死神は「アジャラカモクレンテケレッツノパー」で消えていき、枕元の死神は消えませんでした。
さあ、ここからは乗りかかった船、少年漫画の主人公のごとく医者として成り上がっていきます。
名医、神業の医者として一躍有名になり、自分を罵っていた家族のことは追い出しました。
しかし男は女遊びのため全財産を使い果たしてしまいます。
お金がないならまた医者でお金を稼げばいいじゃない。そう思った男は再び看板をあげます。
※以下「死神」のネタバレが含まれます。ご注意ください。
お金が欲しい男の前に現れる患者は、どれも枕元に死神がいる人ばかり。これでは仕事になりません。
「面白くなるとこだったのに」これでは何も面白くありません。
そこで男は閃きます、死神の隙をついて布団をひっくり返してやれば死神の位置は枕元から足元になるはずだ! その隙に「アジャラカモクレンテケレッツノパー」で死神を消してやればいい! と。
作戦は夜更けに行われ、死神は見事に消えていきました。
しかし、この作戦が男を破滅の道へと進ませます。悪知恵を働かせた男の前に現れたのは、最初に会った死神です。
死神は淡白に、しかしどこか恨みを持った様子で男を地下の世界へと連れていきます。
地下の世界には無数の蝋燭が灯っています。
死神曰く、蝋燭はすべての人間の寿命で、それが消えるとき、命も尽きると。
男の目の前には今にも消えそうな蝋燭が一本。
死神は告げます。
「それはお前のだ」と。
今にも消えそうな自分の火を見て男は言います。
「消えたくない! 面白くなるとこだったのに! ちょっと魔がさしただけじゃないか!」
焦る男に対し死神は「蝋燭の火を別の蝋燭に接いでみろ。上手くいけば生きられる。消えればお前は死ぬ」と告げます。
ほら、はやくしないと消えるよ。
消えると死ぬよ。
消えるよ。
……あ、消えた
というのがおおまかな「死神」のストーリーです。
今回は前回、前々回のコラムとは異なり、サゲ(オチのこと)まで書いています。
さて、ここでひとつみなさんに疑問を投げて終わりたいと思います。
死神の目的はなんだったのでしょうか。
なんの目的もなく男に金儲けの「いい話」を持ってくるのでしょうか。
「死神」のサゲには男が死んでしまうパターン、生き残るパターンなどさまざまなものが存在しています。
そのうちのひとつに「男も死神になってしまう」というサゲがあります。
最初に話を持ちかけた死神、もしかしたらかつては男と同じ人間だったのではないでしょうか。
自分を客観的に見たら、それはそれは面白い話になるでしょう。
同じような境遇の男に声をかけ、全てを見たあと死神はこう言うのです。
「面白くなるとこだったのに」