『星旅少年』待望の4巻発売!「隣にいない人と手を繋げるから手紙なのだ」やさしさと切なさを感じる旅系SFファンタジー
公開日:2024/8/2
プロフィール欄の趣味に「旅行」と書いている人を良く見かける。ご当地グルメが好き、歴史が好き、知らない土地で知らない人と交流したい、目的は人それぞれ。旅は人を魅了してやまない。出会いと別れを繰り返したり、日常から離れ非日常を味わえたりするものだ。
『星旅少年』(坂月さかな/パイ インターナショナル)は、ロードムービー要素たっぷりの、SFファンタジー漫画だ。SFファンタジーというと、闘いのような派手なアクションがありそうに思うが、本作は派手さとは逆で、読了後はとても静かでせつない印象が心に残る。そんな作品だ。
巻頭カラーの建物や室内の真っ青なイラストが美しくて、各巻楽しみになる。一瞬海の底にいるかの様に思えるほどの青と空の真っ黒なコントラストが際立つ。文化保存局特別派遣員の“星旅人(ほしたびびと)”である303が宇宙を旅し、「まどろみの星」の文化を調査・記録している。
この世界には「トビアスの木」という木がある。この木がもつ毒が体内に蓄積すると、人は発芽しいずれ覚めない眠りにつく。そしてトビアスの木になってしまう。「まどろみの星」とは、住民のほとんどがトビアスの木になり眠ってしまった星を指す。
大切な人が木になる終わりが、いつも身近にある世界を303はずっと旅している。実は彼は人ではなく、少年の姿のまま長い時を旅しているのだ。きっと、たくさんの人を見送ってきたのだろう。自分では気付けないつらさやかなしみが303にあるのではないかと読んでいてせつなくなった。
1巻では、303の旅と同僚とのやりとりを楽しみ、2巻では303がかつて保護し、今は管制官としてコンビを組む505との出会いについて知ることができる。3巻では303の過去が中心に描かれる。
また、303が旅から帰還した際には505と2人で行動することも多く、両者にとってお互いが同僚以上の存在であることが感じられる。303は寒くて仕方がなく、立っていられなくなることがあると語る。505は、
“寒い時はちゃんと口に出せよ”
“それでも寒かったら俺んとこに帰ってこい
俺はどこにも行かないしずっとここにいるからさ”
と伝えている。きっと助けを求めることが下手くそな303への救いの言葉だ。
この言葉を受けて、4巻では郵便配達員に「僕手紙ってちょっと怖いかも」「手紙って読んでると相手に近づいちゃう感じがしない?」と303は感じたことを語ることができた。旅先で505に手紙を書くが、郵便配達員に「私たちの仕事は手紙を届けることじゃないです」「手紙に乗った気持ちを届けることです」と言われ、人と繋がることを怖がっているように見える303の中で何かが変わっていくことがわかる。
私は全巻を通して読んで泣きそうになってしまった。キャラクターたちそれぞれのかたちで相手を思いやるやさしさがあり、自分でも気づかないうちに求めていた言葉を言ってくれる。心が疲れたときに読んだら、やさしい言葉の数々に胸が詰まって涙が止まらなくなりそうだ。
4巻には、505と同僚たちとの交流も描かれている。子どものときから知っている仲の良い同僚もいて、お祭りに一緒に行って屋台を楽しむ話も収録されている。同僚たちが出てきてわちゃわちゃした日常も楽しめるほっこり回も必見だ。
303は今回も505の元へ帰ってくるのか、楽しみに読んで欲しい。505は303に何か伝えたいことがあるようで今後の展開が気になる。
文=山上乃々