「性的なパフォーマンスをするダンサーにも信念がある」ポールダンスへのリスペクトを込めたスポーツマンガ『POLE STAR』で描かれる“人としての誇り”〈NONインタビュー〉
更新日:2024/7/31
『デリバリーシンデレラ』や『ハレ婚。』などさまざまな作品を世に送り出してきた漫画家・NONさん。彼女が次に描くのは、ポールダンスに挑む女子中学生の物語だ。『POLE STAR』は自身初挑戦にもなるスポーツ漫画と語るが、なぜポールダンスになったのか? スポーツを描く上での難しさとは? 漫画家としてのこれまでとこれからを語ったインタビュー。
■自宅にポールを設置!
――本日はよろしくお願いいたします。まず、ご自宅にポールが設置されていることに驚きました。
NONさん(以下、NON):驚きますよね(笑)。これは『POLE STAR』の連載がスタートしてから設置しました。実際に自分でポールに乗った姿を撮影して、作画に生かしています。ただ、今は描くだけで精一杯で本格的なトレーニングはできていないんです。
――『POLE STAR』を描くためにご自身でもポールダンスを始めたのでしょうか?
NON:それが違うんですよ。『ハレ婚。おかわり!』『Children’s Project-チルドレンズプロジェクト』のマンガの2つがまとまって、体力気力ともにすごく落ち込んでいました。スーパーに買い物に行くだけで倒れこんじゃうくらい。
でも年齢的に運動をしなきゃいけない、新作のためにネタを探さなきゃいけないという新しいミッションが出てきたんです。そのタイミングで紹介されたのがポールダンス。元々ダンス経験はあったし、楽しく運動できてあわよくばネタとしても使えそうなので、行ってみました。
――これまで様々なジャンルの作品を描かれてきましたが、スポーツマンガはまた新しいジャンルですよね。
NON:同じものを描きたくないんです、飽きちゃうので。新しいことに挑戦していた方が自分的にも楽しいですし。読者さんがついてきてくれるかが少し心配ですけど、核は変わっていないと思います。
――核、というのはどんなものでしょうか?
NON:「人間」を描きたいんです。どういう人生なのか、どういう考え方なのか、それをもってこういう状況になったら何が起こるのか、みたいなことを、キャラクターに入り込んで見たいので。
だから『POLE STAR』も最後までの道は用意してありますけど、キャラクターがこうしたいと言ったらそっちを描くべきだと思いますし、そこは楽しみながら描いています。
――いつも描かれるときは特定のキャラクターに感情移入をするのか、それとも描いている全員にそれぞれ感情移入するのか、どちらなのでしょうか?
NON:全員ですね。悪役にも入ります。『POLE STAR』には悪役はいませんが、視点が主人公だとしても、周りの人の感情に入り込んで描きます。
――確かに『POLE STAR』には悪役がいないですよね。『adabana-従花-』にわかりやすい悪役がいた分、本当に優しい世界のように感じます。
NON:『adabana-従花-』が話の構造上、どうしてもわかりやすい悪役が必要だったんですよね。それにそんなにわかりやすい悪役って存在しないと思うんです。きっと主人公にとって悪役になってしまう人だって、その人なりの考え方があるじゃないですか。それがその人にとっての正義かもしれないというところを描きたいので、対立していても「悪い人」という描き方は嫌だと思っています。
■『POLE STAR』は最後の長期連載?
――新しいことに挑戦するのが楽しいということですが、『POLE STAR』が完結したら次回作はまったく新しいジャンルを描かれるのでしょうか?
NON:私は漫画家として、体力的にも長期連載はこれが最後だと思うんです。何度も言っているんですけど、誰にも信じてもらえないんですよね。自分の能力と体力に限界が来ているのを一番自分がわかっているので、本当に何度も言っています。
だから幅を広げられるとしたらこれが最後のチャンスなので、全力でやっています。でも自信があるかというと難しいですね、わからないです。「集大成だから」と意気込むと疲れちゃうので、今持っている能力でどこまでやれるか、というのをずっと探しています。
――最後のチャンス、ですか。
NON:誰も信じてくれないんですけどね。宮崎駿さんみたいに、どうせまた描くと思われている(笑)。
でも年齢がもっと高い方でもずっと続けている方はいて、本当にすごいことですよ。ありえないですから。私はまだ37歳ですけど、がくんと体力、気力が落ちてしまって…。『POLE STAR』が終わったらまた真っ白期間が来るだろうなと思っています。そこでまたスーパーへ行けるくらい元気になって、気力が戻ってきたらマンガを描きたいって思うかもしれないけど…もうここで全部出すつもりです。
――短編集内のエッセイに「長期連載終了後、次の連載を始めるまでが大変」と書かれていました。1つの作品が終わると燃え尽きる感じなんでしょうか?
NON:そうですね、本当に燃え尽きています。作家さんによっては複数の連載を抱えながら上手にやる方もいらっしゃるんですけど、私にはできなくて。「走って終わったら倒れる」みたいな感じで真っ白になっちゃう期間があります。
■性的な目で見られるポールダンサーも、誇りをもってやっている
――『adabana-従花-』など過去作も、夫のだいさん(構成担当の手塚だい)と一緒に作られていますが、どのように作品作りがスタートするのでしょうか?
NON:『adabana-従花-』は夫から「サスペンスをやってほしい」という要望があったんです。私もサスペンス好きなんですが、自分が描くとなると、物語を俯瞰で見る能力が必要になってきます。私はどちらかというとキャラクターに入り込んで探っていくタイプなので、向いていないと思っていました。でも彼が原案をやるというので、お願いして描くことになりました。
『POLE STAR』は私のアイデアでした。今回は自分が描きたいものを探して、かたちにしていきたいと思って。でも、変わらずブレーンとして一緒に作品を作ってくれています。
――作っていく中で、お二人で意見が合わないこともあるんでしょうか?
NON:『adabana-従花-』はすごくケンカをしながら作りました(笑)。彼は事件をパズルのように組み合わせて、効率的に見せていくっていう作り方をしますが、私はキャラクターの心情を描きたいんです。なので、彼が作った事件とそのパズルにキャラクターの気持ちを乗せて一緒に作っていました。でも私の気持ちが入り込みすぎちゃうと、人を襲うシーンとかが描けなくなっちゃうんです。それで話が変わってしまって、その度に違うと言われていました。
――今回はNONさんがポールダンスの教室に行ったことで、描くことが決まっています。そこから中学生の子が、というストーリーになるまではどういう流れだったんでしょうか?
NON:元々、主人公は高校生の設定でした。でもネームを描いていく中で、母の生態や過去から、それを見る主人公の視点で描くことに決定しました。高校生だともう少し自立している気がして、中学生ならまだお母さんにくっついて振り回されていると思ったので、主人公を中学生に変えたんです。あと、ポールダンスはセクシーなイメージが強いと思ったので、そこから離したかったので、まだ子どもらしさが残る年齢がいいかなと。
――作中でも「競技的なポールダンス」と「セクシーなポールダンス」が分けて描かれていました。クラスの男子たちがいやらしい目で見ているような描写もありましたが、ポールダンスがそういった目線を向けられることを、先生はどのように考えられていますか?
NON:ポールダンスって本当に色々な道がたくさんあって、どれも素敵だと本当に思っているんです。ナイトクラブのショーとしてのポールダンスも素敵だし、ポールスポーツとしてやるのもいいし、ポールアートという道もあったりする。どれも素敵なので否定したくないし、魅力的に描きたいと思っています。
でも主人公は潔癖な性格で、まだ子どもということもあって、性的に挑発するようなレナさんのパフォーマンスを「好きじゃない」というんです。でもレナさんはレナさんなりの信念を持ってやっている、という描き方をしています。
――『デリバリーシンデレラ』では風俗嬢を描かれていましたが、偏見を持たれがちな職業をポジティブに描きたいという思いはあるんでしょうか?
NON:当時はすごく意識していました。でも『デリバリーシンデレラ』でしっかり描いたので、今はやらなくていいと思っています。「実は誇りを持ってやっています」というのはしっかり伝えたいのですが、性的な目で見られることはポールダンサーになったら避けては通れない道だと思うので、そこはフラットでいたいです。