地球人の現在地は「スペース・レボリューション」。ハーバード大学で教壇に立った過去もある著者が語る、宇宙の面白さとは
PR 更新日:2024/8/18
今年1月、日本のJAXA(宇宙航空研究開発機構)が中心となって開発した無人探査機「SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)」が日本初の月面着陸に成功した。また7月1日には日本の新しい主力ロケット「H3」の3号機が、地球観測衛星「だいち4号」を予定の軌道上で分離。「H3」ロケットは2月の2号機の打ち上げに続いて成功した。
国家の威信をかけた宇宙開発競争を繰り広げていた時代は遠い過去となり、いまでは民間が主導する宇宙技術の進歩が見て取れる。そんな宇宙開発の現在地を知ることができる一冊が『宇宙はなぜ面白いのか』(北川智子/ポプラ社)である。
国家間の競争の場であった宇宙はかつては限られた場所であったが、現在では研究や開発だけではなく商業活動も進み、すでに宇宙産業と呼ばれるほど規模が拡大している。アメリカのスペース財団によると、2022年の産業規模は5,460億ドル(1ドル=150円換算で約81兆9000億円)で、モルガン・スタンレーは2040年には1兆ドル(150兆円)以上になると予測しているという。宇宙産業の発展は産業革命や高度経済成長のように大きく飛躍する可能性があり、我々は現在「スペース・レボリューション」の真っ只中にいると著者は言う。
本書では産業として拡大する宇宙技術だけでなく、宇宙探査機の運用からロケットの進化、また宇宙の起源と「地球外生命」などについて、8つの章によってやさしく解説している。
印象的なのは、多大なコストと大規模プロジェクトのイメージが付きまとう宇宙技術が、すでにより安価でよりシンプルなものへと志向していることである。人工衛星はそれまで数百億円を投入して開発されるのが一般的だったが、現在では1辺が10センチをひとつの規格としたキューブサットと呼ばれる衛星が規格化されたことから世界中で作られるようになった。フィリピンはこの小型衛星を北海道大学と東北大学と共同で8億円の予算で開発。観測衛星として2016年に国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から放出された。
そして宇宙空間へ衛星などを運ぶロケットもまた打ち上げのコスト面での改善を志向し、民間企業のスペースXのロケット「ファルコン9」では第1段ブースターとフェアリング(ロケットの先端にあり、衛星を入れて置く部分)を再利用できるよう開発が重ねられてきたという。7月1日に打ち上げが成功した「H3」ロケットも打ち上げコストの削減を念頭に、衛星打ち上げ価格をこれまでの100億円から半分の価格にすることを目標として、世界からの衛星打ち上げの商用需要を見込んでいる。
“産業”として人々が進出していく宇宙だが、核兵器を持ち込まない「宇宙条約」や地球の軌道上にある「宇宙ゴミ(デブリ)」の問題、そして月の環境保全や惑星の保護など、新たなルール作りなどの課題もあるという。
振り返えれば、人類は行き過ぎた経済活動によって環境を大きく傷つけた歴史がある。これからの宇宙が経済活動の場として、過ちを繰り返さないよう人類が試されているのではないかと強く感じた。
産業として宇宙が幅広く活用されることで、それまで遠い存在だと思っていた宇宙が身近なものへと近づきつつある。そのなかで、宇宙は見上げるものではなく、我々が生きているこの地球自体が宇宙の一部分であることなのだとの思いが心に残った。
文=すずきたけし