凄惨な連続死体遺棄事件、その背後に見えてくる「壊れた家族」の正体とは?『死刑にいたる病』の櫛木理宇が手がける新作サスペンスミステリー
PR 公開日:2024/8/1
この世に生を受けた者、誰もが抱える「血のつながり」の問題。美談にも悲劇にも登場するこの言葉の意味を、死体遺棄事件を機に暴かれるある壊れた家族の姿を通して問いかけるのが、『骨と肉』(櫛木理宇/双葉社)だ。
千葉県警の刑事・八島武瑠(たける)は、県内で起きた連続死体遺棄事件の捜査に参加する。被害女性たちの顔や特徴は似通っていて、その体には強姦の跡があり、顔の一部が切り取られるなど激しく損傷していた。捜査を進める武瑠は、20年前に東京都内で起きた同じ手口の女性連続死体遺棄事件を思い出す。
その頃、武瑠に、長く会っていなかった従弟の願示(がんじ)が連絡をとってくる。武瑠と願示は、武瑠の弟、願示の双子の弟、そして武瑠のいとこで今は妻である琴子と一緒に、千葉の田舎町で夏休みを共に過ごした仲だった。怪我を理由に捜査本部から外された武瑠は、願示から、20年前の事件は、すでに亡くなっている願示の弟の尋也が犯人で、今起きている事件はその模倣犯によるものだ、と聞かされる。
武瑠は、本心が読めない願示と協力し、独自に、現在と過去の事件を調べ始める。尋也が残したとされる手記や自らの過去の記憶を読み解き、少年時代に過ごした町に暮らす祖母の家の周辺を調べるうちに、過去と現在の事件の関連が明らかになっていく。
酒が原因で死んだ父親。一族に厄介者扱いされる、認知症の祖母。引き離された一卵性双生児のいびつな関係。どんな家族でも、この程度の暗部は抱えているだろう。しかし、殺人事件の裏にある、血という強固で生々しい鎖がつないできた、武瑠の一族のさらに深い闇が露わになる。同時に、自らも依存や自傷の問題を抱え、危ういバランスで存在していた武瑠自身のアイデンティティも揺らいでいく。
一卵性双生児や遺伝子にまつわる記述と共に進んでいく入り組んだ物語や、真相に迫るほど主人公が追い詰められていくミステリの展開に心躍る。そして、残忍な事件の描写より怖いのが、殺人者の手記や、家庭内で追い詰められた人物たちの起こす行動から感じる狂気だ。櫛木理宇氏の真骨頂である、サスペンスの迫力を存分に味わえる。
しかし本書のもうひとつの軸は、武瑠と琴子という心が離れつつある夫婦を軸にした、人間ドラマだ。サスペンスの鋭さと、人の心の温もりを併せ持つこの物語が、誰もが共感できる「家族」や「遺伝」の問題に深く切り込む。武瑠は、血縁に失望して破滅に向かうのか、それとも目を背けていた家族の問題に正面から向き合うことができるのか、最後までわからない。しかし、家族との不和や、遺伝について複雑な思いを抱いたことがある人なら誰もが、この物語に心が震えるはずだ。読後、家族について、読者ひとりひとりの答えが見つかる1冊。
文=川辺美希