森香澄のスケ番役も話題の『伝説の頭 翔』!20年以上経っても色褪せない原作漫画をレビュー
公開日:2024/8/7
実写ドラマも放映中の漫画『伝説の頭 翔』(夏原武:原作、刃森尊:漫画/講談社)が熱い。ヘナチョコないじめられっ子が、ある日を境にして千人の不良が頭を下げる暴走族の頭(ヘッド)に。主人公・山田達人の覚醒と成長の物語には、心を強く打たれてしまう。
■転生モノではなく生身の人間そのものの人生が入れ替わるのが味
生きる希望がない最下層のパシリ役である達人と、関東最大を誇るギャング・チーマー・暴走族の連合体「グランドクロス」を従える“伝説の頭”伊集院翔。彼らは、ふと出会った。
翔が乗るバイクにひかれそうになった少年を救うため、達人はとっさに道路へ飛び出す。間一髪で事故は免れるも、頭から血を流すほどの重傷を負った翔を病院へ運んだ達人は、彼から「そっくりだ」「オレと1ヶ月だけ人生交換してくれ!」と懇願されることに。
そこから、達人の人生は180度ガラッと変わる。かつて自分をいじめていた不良ですら頭を下げ、女子からモテモテに。通りすがりの不良たちからは「翔さん」と慕われ、黒髪の坊ちゃん刈りでメガネ姿だった地味な生活が一変し、金髪のリーゼントで長ラン姿の翔に“なりきる”人生がはじまるのだ。
もし、誰かの人生を歩めるなら…。誰もが一度は想像したことがあるはずだ。近年では、いわゆる“転生モノ”で無双する物語もすっかり浸透したが、そうではなく、生身である彼らの人生がそっくりそのまま入れ替わり、達人が覚醒していくのも本作ならではの味だ。
■友情の一言で片付けるには惜しい達人と翔の絆
いわば“意気地なし”だった達人が徐々に、翔として生きるなかで人間としての強さを身につけていくのも、本作のみどころ。
大勢の不良がひれふす翔の首を狙う者は多い。ケンカも日常茶飯事で、達人は病室の翔にケンカの極意をアドバイスされる。ただ、拳で解決できないときもある。
好きな女の子のために自分の舎弟が対立する「北総喧嘩隊」の総隊長の弟を殴ったとき、翔は達人に相手へ「おまえが“頭”を下げろ」「大事な舎弟のためには自分のプライドを捨てなきゃいけねー時もある」と説いた。
しかし、北総喧嘩隊を前にした達人は「あやまらねーよ・・」と一言。「おまえらまとめて相手してやるよ!!」とみずからの意思で戦おうとする場面では、漫画を読むこちらの心が熱くなってしまう。
顛末を聞いた翔は達人に対して「おまえは“隊(チーム)”の“頭(ヘッド)”として最低だ!!」と一喝するも「男として最高だ」と称賛。翔になりかわった人生で強くなる達人、彼への厚い信頼を抱く翔の、いわば“友情”の一言で片付けるのが惜しいほどの不思議な絆で結ばれた彼らの関係には、目頭が熱くなってしまう。
達人が男になるのではなく“漢になる”物語。『伝説の頭 翔』の真髄は、まさしくそこにある。漫画誌での連載終了から20年近く経つが、今も色あせず、心の中に熱い何かをたぎらせてくれる名作だ。
文=カネコシュウヘイ