宝箱補充にモンスターの雇用!? TVアニメも放映中、話題のダンジョン運営ファンタジー『ダンジョンの中のひと』
公開日:2024/8/16
最近「中の人」と呼ばれる「舞台の黒子」に近いニュアンスの言葉が流布している。文字の通り着ぐるみや特撮のスーツに入っている人を指す言葉であると同時に、アニメやゲームでキャラクターを演じる声優のほか、企業や組織の関係者・裏方を意味する場合にも用いられる。
現在TVアニメが放送されている『ダンジョンの中のひと』(双見酔/双葉社)は何の疑いもなくただ存在しているだけだと思っていたダンジョンが、実は人とモンスターたちによって運営されており、その運営側視点で描くという従来のダンジョンの概念をぶち壊す物語だ。宝箱の中のアイテム補充やダンジョンで産出される武器の製作などを請け負うといった裏方仕事の描写が多く、普段から大きな舞台を支える裏方側の様子を見聞きするのが好きな身としては、興味深い世界観である。
また、シンプルかつかわいらしい絵柄からはゆるっとした印象を受けるが、戦闘シーンの描写はメリハリが効いていて飽きることがない。ダンジョンの運営にあたっての設定も細かく、RPGゲームが好きな人にオススメしたい一作だ。
主人公・クレイは、幼少期から自分を鍛錬し、3年前にダンジョンに消えた父を捜すべく自らダンジョンに降り立った。
並の冒険者ではたどり着くことさえ不可能な地下8階を踏破した彼女を待っていたのは、それまで以上に凶暴なモンスターとの戦闘であった。戦いの最中、ダンジョンの壁を破壊したモンスターが、突如慌てだし「今すげー問題起きてるから すぐ責任者来るから」といきなり人の言葉でクレイに話し掛けてきたのである。
まるで遊園地でキャラクターたちが出迎えてくれるアトラクションを楽しんでいたら、設備を壊したことでそばに居た着ぐるみの中の人が普通に会話をして対応に追われているのを見て、現実に引き戻されてしまったような気まずい雰囲気だ。そんなコントに出てきそうな設定がツボで思わず笑ってしまった。
その後、責任者として登場したのはダンジョンの管理人でありボスである魔法使いの少女・ベイルヘイラ・ラングダス(通称ベル)。彼女はクレイの戦いぶりを評価しダンジョンの運営の人手不足を理由にスカウトするのである。一見大人しそうでボスのような強さを感じさせないが、クレイが「私より強い父でも敵わなかった」と思うほどの実力を備えている。強くはあるが、部屋の掃除が苦手という人間らしさや、先代が運営したダンジョンをそれまで通りに引き継いでいるのではなく、あるまじき行為をダンジョン内で行う輩に対して「先代は許していたが、わたしのダンジョンでは許さない事にした」と制裁を加えるなど、自身の意志を取り入れている姿が読み手に好感を抱かせる。
ベルをはじめ、クレイの躍動感あふれる動きに憧れる小さなゴーレムたち、一度クレイに倒されて復活後彼女に「俺の子 産んでくれないカ?」と直訴するゴブリン、ベルに対しダンジョンの管理者だろうと場合によっては容赦なくゲンコツを喰らわせる仕事仲間のランガドといったユニークなキャラクターたちも多く登場し、険しいダンジョンとは裏腹にアットホームな雰囲気というギャップも心地良い。
しかしクレイがダンジョンで働くのはあくまで父の情報を探るという目的のためなのだが、目的を達成した後、彼女は果たしてどうするのだろうか。
本作はダンジョンの裏側部分を楽しむギャグマンガであると同時に、ダンジョンでの生活を通じてクレイやベルの成長や心情の変化を描いた物語でもある。
彼女たちが最終的にどうなっていくか、是非見届けてほしい。