『もうじきたべられるぼく』作者・はせがわゆうじ氏、幻のデビュー作! 大脱走を計画する8匹の動物の「覚悟」に拍手と涙
公開日:2024/8/8
SNSで拡散されて泣を誘った『もうじきたべられるぼく』や、もふもふパンダに癒される「ふたごパンダ」シリーズ(ともに中央公論新社)などで知られるイラストレーター・絵本作家のはせがわゆうじさん。そのはせがわさんが描いたという幻のデビュー作『チビ、にげろ!』(中央公論新社)が、刊行されました。
私も『もうじきたべられるぼく』で号泣して以来、絵本を手元に置いて大切にしているのですが、動物たちの切なくも勇敢なお話が展開する本作でも涙を流してしまいました。
8匹の動物たちが大脱走を計画
『チビ、にげろ!8ぴきのだいだっそう』は、オリの中に閉じ込められている親のいない7匹の動物たちが、唯一お母さんがいる子犬のチビをなんとかしてオリから逃がすため、力をあわせて脱走を試みるお話。この、脱走する動物たちがとにかく勇敢なのです。クマはすごい力で木を引っこ抜いて追っ手の行く手を阻み、カバは大きな体で塀を越えるための台になり、必死で追っ手の網からチビを守り、先に行かせようとします。
チビはなんとかオリから出て汽車に乗るのですが、オリの横を通るとき、涙でにじんだ向こう側に見えた風景が切なすぎて…。私の場合、ここが本作の号泣ポイントでした。
大脱走を決断した8匹の覚悟
執拗に追いかけてくる追っ手の網。その数はどんどん増え、捕まれば怪我のひとつやふたつは負うことを避けられないはず。それでも、チビを守ろうと奮闘する動物たちの姿はたくましいものでした。ただ、最後まで読んだときに感じたのです。なぜ動物たちはそこまでしてチビを助けたのだろう、と。
親のいない7匹の動物たちは、オリに張り付くようにして汽車を眺めるチビを見て、大脱走を計画したのでした。チビが母親に会いたがっていることを察したのだと思いますが、母親に対する愛おしさのような感情を、親のいない動物たちが理解していたかどうかはわかりません。
悲しんでいる仲間を全力で助ける、ということだけではなく、母親という存在に憧れたのではないか…オリの外に出ても親がいない自分に代わってチビだけ逃がしてやろうと思ったのだろうか…などと想像が膨らみます。理由は一つではないかもしれないし、それぞれ違ったかもしれないけれど、強く前に進むその姿から、自分たちはこれからもオリの中で生きていくという覚悟を感じ、涙が出てきました。
動物たちを追い込む存在とは?
もう一つ、目を向けたいのは、動物たちがなぜそんなに危険な決断をしなければならなかったのか、ということです。動物たちを傷つけることも厭わない追っ手の網は、動物たちの味方であるようには思えません。
“オリの中”がどのような場所で、追っ手が誰なのかは描かれていませんが、いずれにせよ、動物たちの生活は追っ手の管理下にあるようです。私たちは動物たちの生きる環境を捻じ曲げ、動物たちの幸せを強引に奪っているのだ、という事実を突きつけられるようでした。簡単に答えが出る問題ではないと思いますが、人と動物の共存の仕方について考えるきっかけにもなりそうです。
8匹の動物たちのその後は…
大脱走を経て、7匹の動物たちとチビはお別れします。チビは、全力で自分を守ろうとした仲間たちの姿に、大きな勇気をもらったことでしょう。そして、最後まであきらめずに逃げ延び、彼らの想いに応えたことが、恩返しになったのではないでしょうか。
また、みんなで力を合わせ、チビを母親のもとに送り出したという思い出が、オリに残った動物たちの心の誇りになっていたなら…と願わずにはいられません。
文=吉田あき