月面着陸の失敗率は50年前の2倍以上⁉︎ それでも人類が月を目指し続ける理由/宇宙はなぜ面白いのか①

暮らし

公開日:2024/8/16

宇宙はなぜ面白いのか』(北川智子/ポプラ社)第1回【全4回】

 数キログラムの超小型衛星や日本人宇宙飛行士が月面に降り立つ予定のアルテミス計画など、目覚ましいスピードで進んでいる宇宙開発。そこに異業種から飛び込んだ著者が、宇宙の成り立ちからロケットの仕組み、惑星探査の最前線まで、宇宙について今知っておくべき基本をわかりやすく綴った「挫折しない宇宙の入門書」です。宇宙飛行士・山崎直子氏、宇宙探査エンジニア・小野雅裕氏も推薦する『宇宙はなぜ面白いのか』から、わかりやすくて面白い宇宙についての解説を抜粋してお届けします!

【30日間無料】Amazonの読み放題をチェック >

宇宙はなぜ面白いのか
『宇宙はなぜ面白いのか』
(北川智子/ポプラ社)

ジョン・F・ケネディは「むしろ難しいからやる」と言った

 本書では、月に出かけていった探査機SLIMとチャンドラヤーンを例として紹介しましたが、イギリスのBBCは、2024年2月に『50年前よりも我々は月面着陸が下手になったのか?(Are we worse at Moon landings than 50 years ago?)』という短い動画をウェブ版に掲載しました。

 統計をとると、1970年代に月面着陸を試みたミッションでは約20パーセントが失敗。一方で2020年代には、失敗する率が45パーセント近いというのです。どうして「50年前にできたことが今できていない」というニュースが出るのでしょうか。

 そもそも、どうして月に行くことになったのでしょう。また、どうして今よりも簡単だったように思えるのでしょうか。

 月へのアドベンチャーの原点ともなるアポロ計画について、1962年に当時アメリカ大統領だったジョン・F・ケネディは「We choose to go to the moon」とさあ月に行くぞという決意を込めた名文句を残したのですが、その演説はこう続きます。「not because they are easy, but because they are hard(簡単だからやるのではなく、むしろ難しいからやるのだ)」と。

 つまり、アメリカは月面着陸を「難しいから」やってのけるのだという言葉が、当時の大統領が宣言した「オフィシャルな理由」として残されているわけです。アメリカという国が他国より、特に当時のソビエト連邦より優れている証として、人類にとって難しい月面着陸を遂行するミッションが、政府のフラッグシップ・プロジェクトとして選ばれたということなのです。

 実際1960年代は失敗が続きました。1970年代の成功の影には、60年代の失敗があり、失敗から学んだ蓄積があったのです。

日本の民間企業も月面着陸を目指した

 2024年3月現在、月面着陸には5か国が成功していますが、月面着陸は一回成功したから、さあ我もと次々にできるわけではないのです。まだまだ「難しい」技術として、現在も世界各地で格闘が続いています。

 たとえば、日本の民間企業 ispace(アイスペース)社のHAKUTO-Rは、2023年4月26日に月面着陸に挑戦しました。民間で初めて月面着陸に成功したアメリカの民間企業インテュイティブ・マシーンズ(Intuitive Machines)よりも前に、民間から初の月面着陸を目指したわけです。ライブでも中継があり、応援した方もいらっしゃるかと思いますが、着陸寸前のトラブルで、いわゆるハードランディングになって、軟着陸はかないませんでした。

 またロシアは、旧ソ連時代に月面着陸に成功して以来47年ぶりに、月の南極付近へ向かう探査機ルナ25号を2023年の8月11日に打ち上げました。8月19日には月面着陸の軌道へ入るためにエンジンが噴射されましたが、その軌道投入の際に、通信が途絶えてしまいました。予定していた軌道に入れず月面に衝突したからだろうと言われています。

1970年代よりも月面着陸に失敗する理由

 BBCの動画では、月面着陸に以前よりも失敗する率が上がっている理由を2つ挙げています。1つ目はできるだけ少ない資金で挑戦していること。2つ目は、これまでは国の機関のみが連綿と続いてきた技術をもって挑んでいましたが、最近は民間企業が独自に開発した技術で挑戦していることとしています。

 ESA(欧州宇宙機関)の研究者であるマーカス・ランドグラフさんは、「着陸をどのようにこなすかによる」とメディアでのインタビューに答えています。

 ロケットが地球から月に向かって行く時、月のまわりの軌道に入るまでは、毎秒2キロくらいの速さを保つのですが、月面に着陸する時は、次第に減速して、やさしく降りる必要があります。いわゆる軟着陸というものです。ロボットをリモートで動かしたり、ロボットに自律的に降りさせたりするのは、人がマニュアルで減速するよりも、技術的に難しいのです。

 着陸する場所も変わってきています。以前よりも格段に難しい場所を選ぶようになっているのです。インドのチャンドラヤーン3号やアメリカの民間企業インテュイティブ・マシーンズは、月の南極に着陸しました。月の南極はとても暗く、表面からのダストが目隠しするかのように妨害するので、探査機が自動で障害物を検知して、減速しながらそれらを避ける仕組みを持っておく必要があるのです。

 また、これまで月面着陸をした探査機は、地球から見えている月面への着陸でした。しかし、中国の月面探査機「嫦娥6号」は、24年6月2日に、地球からは見えない月の裏側に初めて着陸したと報道されました。月の裏側から岩や土壌などのサンプルを採取するミッションです。

人類は月に行くべきなのか

 このように月面着陸は、失敗を重ねながらも、以前よりも難しい場所への着陸に成功しています。失敗は乗り越えるものだ、とここでもまた人生論のような話に戻るのですが、宇宙開発は失敗をうまく乗り越えなければ進みません。しかしそれは、宇宙開発に限ったことではありません。私たちの社会において、永遠とシェアされ続けている「失敗をしても諦めない」「失敗は成功のもと」という教訓。失敗は、ありとあらゆるプロジェクトに取り組む時に避けては通れず、失敗をどうにかして乗り越えようとする気合いや挑戦も、万国共通なわけです。

 ただ、そうやって技術を競い合うことがニュースになっても、競争目的で多額のお金を使って月に行くのはどうかという疑問が出るのは当然です。人類が立ち向かっている国と国の境のない問題には、緊急の課題となっている地球温暖化や気候変動などがまず挙げられます。国同士で競うよりも、現在ある技術を使い、地球を観測する取り組みに集中し、地球規模の課題と向かい合うほうが有用だと思えます。私たちが体感しているほかに、地球にはどれほどのダメージがあるのでしょうか。地球観測は温度だけでなく、かなり広範囲で行われ、近年の発展は目覚ましいものがあります。

<第2回に続く>

本作品をAmazon(電子)で読む >

本作品をebookjapanで読む >

本作品をブックライブで読む >

本作品をBOOK☆WALKERで読む >

あわせて読みたい