宇宙の広さは? ダークマターやブラックホールとは? 人類がまだ知り得ぬ宇宙の謎/宇宙はなぜ面白いのか②
公開日:2024/8/17
『宇宙はなぜ面白いのか』(北川智子/ポプラ社)第2回【全4回】
数キログラムの超小型衛星や日本人宇宙飛行士が月面に降り立つ予定のアルテミス計画など、目覚ましいスピードで進んでいる宇宙開発。そこに異業種から飛び込んだ著者が、宇宙の成り立ちからロケットの仕組み、惑星探査の最前線まで、宇宙について今知っておくべき基本をわかりやすく綴った「挫折しない宇宙の入門書」です。宇宙飛行士・山崎直子氏、宇宙探査エンジニア・小野雅裕氏も推薦する『宇宙はなぜ面白いのか』から、わかりやすくて面白い宇宙についての解説を抜粋してお届けします!
銀河は2兆個ほどある
宇宙というのはとても広いので、普段地球上で使うキロメートルという単位ではなく、光年という距離の単位を使います。年というと、時間を表しているようですが、光年は距離を表すものです。光が到達するのに1年かかる距離を1光年とします(キロメートルにすると、約9兆4600億キロメートルです)。地球と太陽の間を、光はおよそ8分で届きますので、1光年というのは、とてつもなく長い距離を指します。
シリウスという輝く星の名前を聞いたことがあるでしょうか。地球から8.6光年の場所にあり、地球から見える星の中で太陽の次に明るい、おおいぬ座の1等星です。その眩い輝きを我々は地球から見ていますが、8.6光年離れたところですから、かなり遠いところからの光が届いているのです。
光が届くのに8.6光年かかったということは、いま私たちが見ている星の姿は8.6年前の姿なのです。ですから、100万光年離れたところにある星の場合、100万年前の姿を見ていることになります。遠く、遠く、深宇宙にある星を観測することは、昔の宇宙の姿を知ることにもなるのです。
地球がある太陽系は天の川銀河にありますが、その隣にあるアンドロメダ銀河は250万光年とはるかはるか遠方にあります。宇宙そのものがどれだけ広いのか、まだわかっていないのが実情ですが、現在観測できるデータから推測するに、銀河は2兆個ほどはあるのではないかと言われています。
宇宙の膨張を加速させているダークエネルギー
宇宙の広さだけではなく、実はその組成の95パーセントは、まだわかっていません。しかし、その「わかっていないもの」にも名前はついていて、ひとつはダークエネルギー、もうひとつはダークマターと呼ばれています。
まずは、ダークエネルギーですが、その存在を設定する必要が生まれた背景のお話から始めます。宇宙の大きさについて、20世紀の初頭までの定説では、過去も未来も変わらない不変のものとされていました。その定説を、数式をもってサポートしていたのが、アルバート・アインシュタインでした。彼は、自ら提唱した数式に「宇宙定数」という項を導入しました。宇宙の大きさは不変と信じるアインシュタインにとって、この項は、宇宙の大きさが変化しないように数式を調整するためのものでした。
しかし、天文学者エドウィン・ハッブルの観測により宇宙が膨張していることが証明され、アインシュタインは「宇宙定数」を自ら撤回しました。アインシュタインは、「宇宙定数」を導入したことを「自分の人生最大の失敗だった」と悔やんだと言います。
さらにその後、思いがけない展開になります。宇宙の膨張が加速しているということも分かったのです。「宇宙定数」を宇宙が膨張するエネルギーの源として考えると、アインシュタインの数式が宇宙の膨張の加速を考慮したものとして成り立ったのです。今ではその膨張させているエネルギーを、ダークエネルギーと呼んでいます。ダークエネルギーは、現在の宇宙の68パーセントほどを占め、宇宙空間に均等に分布していると言われています。
ダークマターとはなにか
もうひとつの「わかっていないもの」は、宇宙の27パーセントを占めると言われているダークマターです。ダークマターも、わかっていないものに名前をつけているだけなので、どんなものか摑みにくいかもしれません。何を説明するためのものかというと、渦巻く銀河の仕組みです。
銀河の内側と外側を比べた時に、銀河に含まれている星やガスの質量の分布からは、内側のほうが速く回っているはずなのに、なぜか観測値によると内側と外側がほぼ同じ速度で回転しているようでおかしいという謎を解明するためのものです。1960年代から指摘され始め、1970年代にアメリカのヴェラ・ルービンという天文学者が、アンドロメダ銀河の回転速度を測っていた時に、銀河の中心と外側で、それほど速度が変わらないという具体的なデータを得たことで、より高い信憑性を持って支持されることになりました。
銀河の中心に近い地点でも、遠い地点でも、ほぼ同じ速度で回っているということは、私たちが知っている物質ではない、質量を持つ「何か」が、銀河全体をすっぽり覆い尽くすように存在していて、どの地点でも同じ速度で回転することを可能にしていると考えたわけです。その「何か」をダークマターと呼んで、つじつまを合わせているのです。
現在の観測機器では捉えられていない存在なので、謎の物質です。観測しても目には見えない、けれど質量がある、我々人類がまだ知り得ていない「何か」なわけです。とりあえず、何かがあるべきなので、ダークマターと呼びつつ、観測や分析が進められています。
ここで、目に見えないものをどうやって観測しているのか、という疑問が出てくるかもしれません。観測方法のひとつは重力レンズ効果と呼ばれる現象を捉えるものです。
質量がとても大きい天体があると、大きな重力がかかるため、光が曲がります。ですから、ダークマターが集中しているエリアを光が通る時、レンズを通った時のような歪みが生じるわけです。目には見えなくても、この重力レンズ効果を調べることで、銀河のどこにダークマターがあるのか、その分布を調べることができるのです。最初に重力レンズ効果を予測したのはアインシュタインでした。
重力レンズ効果でダークマターを観測する米国ニューメキシコのスカイ天文台では、昆虫の複眼のように24個の望遠鏡を並べた「ドラゴンフライ望遠鏡」を使っています。日本語にすると「とんぼ望遠鏡」でしょうか。複数のレンズから得た画像の合成で、より鮮明な銀河の様子を捉えることができました。その一方で、ダークマターが存在しない銀河があることも判明しました。
このように宇宙は、物理学的にも再考の余地があるくらい未知のことが多いのです。ですから、宇宙のことを観測することは、実は物理学の根幹をなす部分の研究が行われているのと同義なのです。
ブラックホールとはなにか
ダークマターの一部は、ブラックホールではないかという説があります。ブラックホールは、重力が極端に大きいため、まわりのものを飲み込み、光さえも脱出できません。そのブラックホールが、ダークマターとかかわりがあるのではないかというものです。
ブラックホールはどのように生まれるのでしょうか。今から50億年ほどで、太陽は寿命を迎え、光を失い、ひっそりと余生を送ることになると考えられていますが、太陽の数十倍の質量を持つ重い恒星は、最後に超新星爆発と呼ばれる激しい爆発を起こします。この爆発が、ブラックホールが生まれる原因のひとつとなっています。
最初に発見されたブラックホールは、天の川銀河にある、はくちょう座X-1という、7200光年あまり離れた場所にあるもので、太陽の21個分以上の重さがあるとされています。しかし、その画像は発見時には捉えられていませんでした。
ブラックホールの中心はどうなっているのだろうか、今あるデータを見るとこういうモデルが成り立つのではないか、という議論は出ていましたが、そのような仮説を裏付けるブラックホールの画像やデータは取れないという手探りの時代が長く続いていたのです。ブラックホールの正体の可視化に繫がるデータが待ち望まれていました。
<第3回に続く>