就活に苦戦する大学生が出会ったインテリアデザイナー。彼女とクライアントとの対話で自分も見つめ直す『ルーム・ツアーズ』
PR 公開日:2024/8/16
現在「MELODY」で連載中の『ルーム・ツアーズ』(マツモトトモ/白泉社)は『方言男子のつくり方』『インヘルノ』のマツモトトモ先生がインテリア&ルームツアー動画好きな全てのひとにおくる最新作。2024年7月5日に第1巻が発売された。
主人公の中原中(なかはらあたる)は、就職活動に大苦戦している大学生。半ばやけくそになった勢いで、友人の紹介で空間デザイナー・高石夏子(たかいしなつこ)のもとでアルバイトを始めることに。癖の強い職人気質な夏子のもとに来る依頼もまた、一癖も二癖もある案件ばかり。彼女は「居場所は与えられるものではなく、自分で作るもの」という想いで、住む人に合わせた空間を作り上げていく。中原は夏子の仕事ぶりに触れる中で、自分らしい生き方について考え始める。そして、仕事を通して出会う個性的な人々との交流から、人生における大切なものに気づかされていく…。
夏子は「居場所を作る」という行為を通して、ただ部屋の模様替えをするのではなく、住む人の人生に寄り添いながら部屋を変えていく。例えば無機質に見える空間がもたらす心理的な効果など、彼女の空間に対する深い洞察は読者に新鮮な驚きと感動を与えるだろう。特に彼女が手がける部屋のデザインは、住む人々の個性や生活スタイルを反映しており、それぞれの部屋が一つの物語を紡いでいるかのようである。夏子の手によって、古びた家具に新しい命が吹き込まれたり、斬新な発想のレイアウトで住人たちの心を豊かにしたりする様子は、まさに空間デザインの魔法である。
また、本作を通して描かれる人間模様も魅力的である。各クライアントが抱える悩みや葛藤、そして成長していく姿は、読者に共感を呼び起こす。そして中原もまた、クライアントとの出会いによって、影響を受けながら自分自身を見つめ直していく。その過程は、人生における成長と変化の大切さを教えてくれるようだ。依頼者である彼らから共有される時間や空間は、何気ない日常の一部であるが、その中にこそ本当に大切なものが隠されていると気づかされる。
そして、「インテリア&ルームツアー動画好きな全てのひとにおくる」と謳われている通り本作の視覚的な美しさにも注目してほしい。細部にまでこだわった描写は、部屋の雰囲気や家具の質感をリアルに伝え、読者を作品の世界に引き込む。空間デザインの視点から見ても、非常に興味深い作品であり、インテリアに興味がある人にとっても楽しめる内容となっている。
『ルーム・ツアーズ』は、単なるマンガの枠を超え、人生における「居場所」や「生き方」について深く考えさせてくれる作品である。読後には、きっと自分の周りの空間や人間関係を、新しい視点で見つめ直したくなるだろう。居場所とは何か、自分にとって本当に大切なものは何かを再考させるこの作品は、読者にとって心に残る一冊となるに違いない。