ドラマの楠見くんと漫画の楠見くん、どっちも素敵で選べない!? 『西園寺さんは家事をしない』原作レビュー

マンガ

公開日:2024/8/13

西園寺さんは家事をしない
西園寺さんは家事をしない』(ひうらさとる/講談社)

 毎週火曜日22時からTBS系で放送されているドラマ『西園寺さんは家事をしない』。ひょんなことから共同生活を送ることになる一切家事をしない38歳独身女性・西園寺一妃(松本若菜)と、妻に先立たれたシングルファザー・楠見俊直(松村北斗)&その娘・ルカ(倉田瑛茉)。一見変わった設定ながら、「家族とは何か?」という多くの人に刺さるテーマを時にコミカルに描き、高い注目を集めるドラマです。同名の原作(ひうらさとる/講談社)から、そのストーリーの魅力を紹介します。

◾️かっこいい西園寺さんに好感度爆上がり

 西園寺さんはとにかく家事をしない主義。洗濯はシワにならない服のみを買うことでドラム式洗濯乾燥機に乾いた服をそのまま放置し、着替える時に取り出すフローを実現。料理と洗い物はパラフィン紙の容器持参で近所のお店からお惣菜を購入し、容器は何度か洗って捨てる。掃除はルンバで全てできるように、購入した一軒家をリフォームするという徹底ぶりです。その上仕事は“家事を楽に楽しく”をコンセプトにした新進IT企業。この時点で日々家事に忙殺される主婦(私)は、「うらやましい! かっこいい!」と主人公への好感度が爆上がりです。

 そんな夢の家事ゼロライフを満喫していたところに現れたのが、超優秀なエンジニアとして職場に転職してきた楠見くん。西園寺さんは転職直後に火事で焼け出されている楠見くんに遭遇したことをきっかけに、賃貸に出そうとしていた部屋に住むことを提案。西園寺邸を訪れた楠見くんはなんと娘を連れていた――。ここで西園寺さんは楠見くんがシングルファザーであることを知ります。

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◾️漫画の楠見くんは子犬系男子!?

 漫画の楠見くんとドラマの楠見くんとは設定が少し違う印象。ドラマの楠見くんは現在3話までを見た限りでは「すみません」が口癖。「他人に頼らず自分がしっかりしないと」と常に緊張の糸が張りつめているように見えます。第1話ラストでは楠見くん役の松村北斗さんの涙の演技も話題を集め、「そんなに頑張らなくていいんだよ」と手を差し伸べたくなった人も多いのではないでしょうか?

 一方漫画の楠見くんは、初対面では能面男と思われたのに、無自覚に距離感が近かったりと西園寺さんを振り回します。頼りなくてかまってあげたくなる、子犬系年下男子といったところでしょうか。ドラマの楠見くんが気になった方は、ぜひ漫画の楠見くんにも会ってみてください。

◾️現代の家族観、家事育児事情にフィットするストーリー

 私が本作を愛する一番の理由は、家事育児への解像度が高いこと。例えば西園寺さんがゲーム感覚で家事を平等に分けるアプリを考案しますが、ユーザーからは「家事に平等などあり得ない」という厳しいジャッジが。たとえアプリで家事を完全に平等にしても「できない夫にやらせても監督の役割を担わなければならず、ひとりでやった方が楽」「好きな人に苦手なことをさせたくない」など多くの否定的な意見が飛び交います。特に前者は頷く人も多いはず。

 西園寺さんと楠見くんも偽家族を結成し、家事育児を平等にシェアしていきますが、段々とほころびが。西園寺さんの中にイライラが募ります。しかし、その後紆余曲折を経ながらもふたりにとっての最適解を見出す様子が描かれ、「我が家にも我が家だけのベストな形があるのかも」と思わせてくれるところが素敵。

 もうひとつ印象的なシーンが、ルカちゃんの誕生日会をやる回。張り切る西園寺さんに友人が「複雑な家庭環境がバレたら引かれるだけ」と忠告します。これまでの漫画だったら実際にそのような事態が発生し、「ママ友って怖い」という話にもっていかれることが多かった気がします。

 しかし本作は準備がうまくできない西園寺さんにママ友みんなが手を差し伸べてくれます。さらに当日も家族の多様性を改めて感じる展開が。このように現代の家族観にフィットした展開が多く、安心して読めるだけでなく、自分の気持ちも前向きになれるのが本書の良さです。

 先日発売した5巻で本作は完結。涙なしでは読めない一冊、そして「家族とは何か?」にみんなの心が明るくなるような答えを出してくれる物語でした。

文=原智香

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