同族を殺し続ける絶滅危惧種のペンギン。SNSでも話題になった、絶滅危惧種たちの生き方を描くマンガ『きみの絶滅する前に』
PR 公開日:2024/8/16
――生産性のない日々、生産性のない人生。昨今、なんでもかんでも“生産性”という物差しで物事を数値化したり、価値を決めたりするような風潮が強まっているように思う。
なにか達成すべき目標に対して、最短かつ確実に辿り着くために生産性を意識するのは納得できる。対して、生産性という言葉に囚われて、自分の人生を無意味に感じ、焦燥感を抱いてしまうのは率直に違うと思う。つまり、システム的なものと人間を生産性という物差しで同列に語ることはできないのだと感じている。ただ、頭ではそう思っていても、つい周囲と比較して「この人生に意味はあるのか?」と自問自答してしまったことはもちろん自分にだってあるわけで……。生産性とはなんだか知らず知らずの内に人の心を蝕む、現代に蔓延る呪いのようだ。
8月9日に発売された『きみの絶滅する前に』(後谷戸隆:原作、我孫子楽人:漫画/講談社)は、そんな呪いに抗う者たちの6編の物語が収録された1冊だが、“抗う者”とは人間ではなく……。その正体は、ペンギン、カラス、ラッコ、カワウソ、カカポなど、絶滅寸前の動物たちなのである。特に第1話は、ペンギンのペンが同族を皆殺しにするというとても衝撃的なシーンから始まる。
絶滅前夜ゆえに、子孫を作って世代を重ねていくことに重きを置かれるこの世界。そのルートから外れたペンギンは非生産的だと非難される……。ただ生きているだけでは許されず苦痛を伴う人生ならば、そもそも生まれてこなければ良いのだと、反出生主義に傾倒するあまり同族を殺し続けるペン。まるっときゅるっとしたお目めが特徴の大変愛らしい姿で描かれているからこそ、淡々と仲間の命を奪うペンは恐ろしいほどゾッとするし、なんだかただ者ではない物語を開いてしまったと緊張感が走る。
一方でそんな彼と一緒に暮らすマールはいつも「石」を大切に温めている。卵ではなく石を温める(石を卵と思い込む)のは動物の習性としてよく見受けられることらしいのだが、マールは決して卵の代替品として石を温めているのではない。生きる価値を生産性だけで測らないでほしいと。そんな抗議の意味で石を温めているのだ。
その後に描かれる、カラス、ラッコ、カワウソ、カカポ、それぞれの物語においても共通して「生きている意味」に囚われ問い続ける者がいる一方で、マールのように「石」を温め続ける者が存在する。そんな本作を一言でいうならば「絶滅前夜の動物を通して私たちの世界を見る」。主な登場人物は動物だけれど、生きることに対して生産性という物差しで測りがちな人間の私たちに痛いほど響く作品となっている。
絶滅寸前という生命の狭間で生きる、ペンギン、カラス、ラッコ、カワウソ、カカポたちの物語。そのラストはどこか心に影を残すような悲しさがあるけれど、命ある者、そして生きているということは“生産性”などという三文字では決して測れない、ましてや価値を決めることなんてできないのだと。現代に生きる私たちがつい囚われてしまいがちな呪いに一石を投じてくれるのだ。そんな本作から受け取った「石」を私も温めて、この呪いに抗っていきたい。
文=ちゃんめい