価値観の違い/絶望ライン工 独身獄中記㉕

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公開日:2024/8/21

絶望ライン工 独身獄中記

ダラダラと流されて生きてきた自分に、動画投稿や連載といった創作的趣味ができたのはここ最近のことである。
それまではゲームやアニメ鑑賞といった、主に消費する趣味に時間を費やしていた。
動画投稿をしていると、頂くコメントを通じて実に様々な価値観があることを実感する。
例えば「味噌汁が旨い」と発信すれば
旨そう、海苔もいいよね、赤だしも美味しいよ、まずそう、お金がなくて食べられない人もいるんですよ、皆さんコイツは金持ってます、貧乏人をバカにするな、誰々のパクり
などと色々な立場の方からのコメントが散見される。

どれが間違っていてどれが正しい、といった話ではなく、価値観の違いについて私は自分の中に答えを持っています。
『違いを認めるが、分かり合える日は永遠に来ない』
これは死生観、宗教観で例えると実に分かりやすい。
死後の世界を信じている人に「死後の世界はない」と言っても無駄である。
逆に我々は死後の世界をあまり信じていないが、実際はあるのかもしれない。

前世で悪いことをしたという理由で身分の低いものにさらに罰を与える宗教もあるし、女性を物であるかのように扱う宗教もある。
児童への暴力を神の教えとして肯定している宗教さえある。
その根拠は「聖典にそう書いてあるから」。
でも本当に前世で悪事を働いたから身分が低いのかもしれないし、女性は物なのかもしれないし、暴力によって信仰心が芽生えるかもしれないよね。
私はそうは思わないけど。

令和の世の道徳心や倫理観からすれば、1000年前に書かれた聖典の教えと価値観で生きる彼らは異様な集団に思える。
しかしどちらが正しいという話ではない。
彼らからすれば私のほうが間違いだし、戒律を破る邪悪な異教徒、神の教えに背く悪魔の権化、信者を惑わす悪辣なサタンになるのだろう。
宗教観、死生観の違いは絶対に分かり合えない。
争いの火種となり、これまで数多の戦禍をもたらしことは、我々人類の歴史を見れば明らかである。
そしてその火は、いまだ煌々と燃え続けているのだ。
そんなわけで価値観の違いを埋めるのは「きっと分かり合える、分かり合おう」とする身勝手な言葉ではなく、違いを認めるが敢えて対話をしない「沈黙」であると常々思う。

なんか重い話になってしまった。
でも大事ことなのでちゃんと書きました。
本当は「大学の時バイト先の女子高生が彼氏に大学に行けと言われて号泣した話」を価値観の違いを交えておもしろおかしく書こうと思っていたが、本稿でそれは難しそうである。
そんなわけで私は自分の考えと違う意見を認めるが、反論や議論はしないことにしています。
飲んだ時以外は。
仲間と飲んだ時はめっちゃ議論する。
議論というか、もうラップでアンサー返すまである。
ここぞとばかりに饒舌にあーでもないこーでもないと御託を並べるが、これもまた楽しい。

価値観の違う者同士が繰り広げる、一生パラレルな論争が見たければインターネットを活用するのがオススメです。
XというSNSでは毎日不毛な争いが繰り広げられ、憎しみと憎しみが交錯する形からXと呼ばれているのではないかと思う程だ。
どこにそんな攻撃性があったんだと思わんばかりに咆哮する文化人崩れ、芸能界の恐ろしさを身をもって教えてくれる暴露系港区女子、ハチャメチャな未来を描く陰謀論者、そしてリプ欄を盛り上げる謎のアラビア語文字列・・・。

価値観の違いそのものを楽しみたい方に是非お薦めしたいのが、TikTokという短編動画サーヴィス。
日本人には理解できない、様々な禁忌を茶化すようなサプライズ、プロポーズ、フラッシュモブ。
ここには書けないような内容の見世物的コンテンツ、衝撃的な事故映像など。
食べ物を無駄にする系の動画が謎に人気なのは、普段見ることができないものが見たい、というポルノ的欲求に近いのかもしれない。
貴方はきっと沈黙を通り過ぎ、言葉を失い絶句する。

他にも有名どころだと5ch、ガルちゃんなど匿名掲示板があるが、これらは実は価値観の近い人達が集まりやすい傾向にあり、近年は議論より同意をメインコンテンツとしている。
そういえばドイツ人は議論が大好きで、ドイツの映画は2時間ずっとテーブルに座って議論している、と聞いたことがある。
価値観の違いは残酷だが、外から見ると実に興味深い。

私は投げつけられる異なる価値観に対し沈黙をもって返礼としています。
でももし貴方がこれを読んで、自分と異なる価値観だな、と思ったならば沈黙ではなく是非感想として述べて欲しい。
それはどんな内容だったとて、創作を趣味とする者への最高のご褒美になるのだから。

<第26回に続く>

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絶望ライン工(ぜつぼうらいんこう)
41歳独身男性。工場勤務をしながら日々の有様を配信する。柴犬と暮らす。