泥酔姿を世界に晒し一夜で人気VTuberに!? TVアニメ放送中の大人気ラノベをコミカライズ『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』

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公開日:2024/8/25

VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた"
VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』(藤崎ろと:漫画、七斗七:原作、塩かずのこ:キャラクター原案/KADOKAWA)

 VTuberにどんなイメージをもたれるだろうか。バーチャルの枠を超えてリアルの音楽フェスに出演したり、東京の観光大使に任命されたりと、人気者で華やか、界隈は大きく盛り上がり続けている。すでに憧れの職業のひとつにと言ってもよいのではないだろうか。またVTuber事務所を運営する企業が株式上場したことも大きな話題になった。

 そんなVTuberを題材とした物語が『VTuberなんだが配信切り忘れたら伝説になってた』(藤崎ろと:漫画、七斗七:原作、塩かずのこ:キャラクター原案/KADOKAWA)である。本作は2024年8月現在、富士見ファンタジア文庫から9巻まで発売中の人気ライトノベルのコミカライズで、2024年7月からスタートした同名のTVアニメに合わせるかのように1巻が発売された。

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 鳴かず飛ばずの新人清楚系VTuber・心音淡雪(こころね・あわゆき)はある日、配信を切り忘れ、酒に溺れる素の自分を全世界に晒してしまう。
炎上の2文字がちらつく、キャラクターと対極なその姿を、なぜか視聴者は絶賛する。

■配信切り忘れから始まる大逆転劇!前代未聞の清楚系VTuber爆誕

 淡雪は、人気VTuberを多く抱える大手事務所・ライブオンからデビューして約3カ月の新人Vtuberである。毎日配信を頑張っていたものの、配信をリアルタイムで視聴しているユーザーの数を示す同接数は200人弱、チャンネル登録者数も伸び悩んでいた。収益化への道はかなり遠かった(一定のチャンネル登録者数や動画視聴時間などの条件を満たして初めて動画は収益化できる)。

 いちリスナーとしてVTuberの配信を楽しんでいた会社員・田中雪(たなか・ゆき)が、憧れの存在であるVTuberになることが決まったときに選んだのは、素の自分とは異なる清楚系Vtuber「心音淡雪」としての道だった。しかし自分自身が作り上げたキャラクターと本来の自分とのギャップで、淡雪はその魅力を発揮できないでいた。

 ある日の配信後、淡雪はいつものようにいたたまれない心を癒してくれる「ガチゼロ」をカシュッと開缶する。アルコール度10%「疲れも悩みも飲んだ瞬間さようなら」できる、酔うことだけを追求してつくられた魔の飲料である。

 そして、彼女は2缶目のガチゼロを飲みながら、もうひとつの癒しであるVTuberたちの配信を楽しむ。楽しみながらも、ライブオンで同時期に配信デビューした仲間からも大きく差を付けられ(同期の中では最下位の成績)、自分のふがいなさが身に染みてきた淡雪は泥酔状態に。素の自分を晒け出し、かなりアウトな下ネタばかりの“ひとりごと”を口にしつつ、いつしか寝落ちしてしまう。そして朝、目覚めたときにマネージャーから電話で聞かされたのは「配信切り忘れ」という現実……。

 VTuberにあるまじき失態のはずだが、普段の清楚な淡雪とは正反対の“素の淡雪”を目撃した者たちの反応 は……なんと概ね肯定的であった。

「飲酒配信よかった」「こうも飾らないの見せられると憎めない」「一緒にガチゼロ飲みたい」などのコメントが付き、同接数はなんと1万超え。ネットニュースにもなり、SNSの世界トレンド1位となっていた。さらに淡雪は、配信を切る間際にショックと二日酔いからリスナーの前で“リバース”をかます伝説を残してしまう。

 落ち込んでいた淡雪だったが、配信を待ちわびるリスナーの声と、ライブオンのVTuberたちからの好意的なメッセージも受け取り、“一夜明けて”配信を行う。ただし、ガチゼロを摂取しつつである。

 今までにない、たくさんの反応とアルコールによるブーストで舌も滑らか。その口からは「ガチゼロと結婚する」宣言、荒ぶった口調、パロディ、ネットミーム、下ネタが飛び出し、大多数のリスナーは盛り上がりまくる。その日、淡雪は「人間結局はまっすぐで正直な奴が一番なんだよ!」とまるで失態を犯した自分を肯定するかのような名言を残すのだった。もちろん泥酔状態で。

■愛される正直者・心音淡雪、伝説へ

 こうして淡雪はほぼ別キャラとしてブレイク、同期のVtuberが考案した「シュワちゃん」という新しいあだ名で親しまれ、動画の再生回数も急上昇していく。会社にも認められていくなか、憧れだった先輩VTuberからもコラボ配信に誘われるようになる。

「配信切り忘れ」からの展開が早すぎて、ついていくのに必死な淡雪。そもそも、なぜ世界はやらかした彼女に好意的だったのか。それは、人が「正直」な人間を愛するからなのだ。

 考えてみれば「ネタ枠」「ぶっちゃけキャラ」「おもしれー女」などと呼ばれる人気アイドルやタレントは数多くいる。淡雪もまた、必死に取り繕ってマトモぶるのをやめることで、期せずして“愛されポジション”にハマった。

 不用意な配信で世界が変わったとき、淡雪は前述したように「まっすぐで正直なのが一番」だと理解できた。そして、殻を割って進むことにした。ただVTuber の配信が大好きで楽しんでいた彼女は、今や自分がVTuberとして注目される存在だ。リスナー、マネージャー、仲間、そして私たち読者も彼女がどこまでいくのか確かめたくなる。

 なお、絶賛放送中のTVアニメもハイクオリティな作画や、原作小説のPVから淡雪を演じている佐倉綾音の好演もあり、SNSでも話題になっている。YouTubeチャンネル「ライブオン公式動画&切り抜き Ch.」や心音淡雪のSNSアカウントもつくられており、メディアミックスな盛り上がりをみせている。ぜひ原作小説、動画、SNS、TVアニメ、そしてこのコミカライズで、彼女の伝説を存分に楽しんでほしい。

文=古林恭

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