アダルトサイトで見つけた不審なコメント。好奇心から返信してみると/近畿地方のある場所について①

文芸・カルチャー

公開日:2024/8/23

近畿地方のある場所について』(背筋/KADOKAWA)第1回【全19回】

「情報をお持ちの方はご連絡ください。」Web小説サイトカクヨムで連載され話題を集めたホラー小説『近畿地方のある場所について』より、恐怖の始まりとなる冒頭5つのお話をお届けします。オカルト雑誌で編集者をしていた友人の小沢が消息を絶った。失踪前、彼が集めていたのは近畿地方の“ある場所”に関連する怪談や逸話。それらを読み解くうちに、恐ろしい事実が判明する――。あまりにもリアルでゾッとするモキュメンタリー(フィクションドキュメンタリー)ホラーをお楽しみください。

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近畿地方のある場所について
『近畿地方のある場所について』(背筋/KADOKAWA)

某月刊誌別冊 2017年7月発行掲載 短編「おかしな書き込み」

 都内在住の24歳会社員、Aさんは新卒でエンジニアとして入社したシステム会社の業務にも慣れ、刺激のない鬱々とした毎日を送っていたという。

 趣味もなく、彼女もいないAさんがストレス解消にしたのはサイト巡りだった。

「恥ずかしい話なんですが、いわゆるアダルトサイトってやつですね。最近だと動画の無料転載をやってるようなサイトも多いじゃないですか? もちろん褒められたものではないと思うんですが。毎日寝る前にいくつかのそういうサイトを巡るのがほぼ日課みたいになってました」

 なかでもひときわお気に入りのサイトがあったという。

「そのサイトは有名なレーベルの新作も転載していて、けっこうアクセスしてたと思います。ただ、ちょっと作りが独特で……。動画の再生枠の下って普通は他の動画へのオススメ枠になってることが多いんですけど、そのサイトはコメント欄があったんです」

 これはエンジニアとしての俺の予想なんですけど、と前置きしてAさんは続ける。

「こういう界隈のサイトって法律のグレーゾーンで運用してることがほとんどなんで、いつ閉鎖してもおかしくない。そういった理由もあってか、とにかくサイト自体に手間をかけてないんですよね。具体的にいうと、別のサイトの枠組みを流用してることが多い。そのほうがイチから作らなくて済むから簡単なんですよ。だから、そのサイトのコメント欄も運営側が意図して作ったっていうよりかは、たまたま流用元にあったっていうような印象を受けました。無断転載のアダルト動画を観て、コメント欄で交流するような変人もいませんしね」

 その予想を裏づけるように、コメント欄にコメントが書き込まれることはほとんどなく、あったとしても『動画が途中で切れてるぞ』や『こんな動画じゃなくて新作動画をアップしろ』などといったほとんど文句といってもいいものがまれに見られるくらいで、運営からの返信コメントがあることもなく、活用されている様子はなかった。

 ある日、いつものようにそのサイトへアクセスしたAさんは妙な書き込みを見つけた。

「その動画はお気に入りのレーベルで売り出し中の、新人のデビュー作でした。見つけたときはラッキーって感じだったんですが、観終わったあとになんとなくスクロールしたらそのコメントが目に入ったんです」

『かわいい。うちへきませんか。』

「第一印象としては、インターネットの使い方をわかっていないおじいさんとかが書き込んだのかなと思ったのですが、なんだか妙な雰囲気がして心に引っかかっていました」

 ひと月ほど経って、そのサイトで同じ女優の新作をAさんは見つけた。

「もう二作目出てるんだ、なんて思いながら観たんですが、そこでまた書き込みを見つけました」

『うちへきませんか。かきもありますよ。』

「直感的に、同じ人だなと思いました。もちろん、こんなところでコメントしても女の子本人が読むはずもないし、文章も意味不明だし気持ち悪いなって感じました」

 そのあとも不定期に転載されるその女優の動画には似た文体のコメントが必ずといっていいほど書き込まれていたという。それらは、ほとんど書き込みのないコメント欄でかなり目を引いた。

「俺もだんだん楽しみになってきて、その女の子の動画が投稿されるとコメントがついてないか確認するようになっていました」

 そんなことを続けて数か月、また例の女優の出演作が転載されている動画が投稿された。そのコメント欄にはこう書き込まれていたという。

『お山にきませんか。かきもあります。』

 その日は仕事で上司に叱られたこともあり、Aさんの頭に暗い好奇心が湧いたという。

「ちょっとからかってやろうかな程度の考えでした」

 そのコメントの返信欄に書き込みをしてみたのだ。

『お山にきませんか。かきもあります。』

『いつもコメントありがとうございます! 〇〇(出演女優の名前)です。おうちはどこなんですか?』

 書き込んだはいいものの、返信したことで一旦満足してしまい、その日を終えるとAさんはそんな書き込みをしたことも忘れてしまっていたという。

 次にそれを思い出したのは、新しく投稿されたその女優の動画だった。コメント欄にはこうあった。

『なぜこない。まって居るずっと。』

「慌てて前回返信したコメントのある動画ページまでアクセスしたんですが、俺がいたずらでした返信に、さらに返信がついていたんです」

『お山にきませんか。かきもあります。』

『いつもコメントありがとうございます! 〇〇です。おうちはどこなんですか?』

『●●●●●-●●-●●●(実在住所のため伏せる)』

「番地まで全て書いてあったんです。さすがに驚きました。相手は本気なんだなって。同時に自分は本当にヤバい人に返信をしてしまったんだなとも思いました」

 恐怖を感じながらも、ふとAさんは思いたち、地図アプリで検索をかけてみたという。

「別に目的があったわけではないんですが、こんなにヤバい人はどんな家に住んでるんだろうと思って」

 表示された場所を見て、驚いた。

「家じゃなかったんですよ。神社でした。それも田舎のほうにあるかなり古い神社。ストリートビューで見たら小高い山の上にある神社みたいで。ふもとの車道の脇道に古ぼけた鳥居が立っていて、そこから山の上のほうに本殿へ続く階段が伸びていました。本殿も荒れてたし、廃墟になってたんじゃないかな」

「もうこれ以上深入りしたくなくて。それ以降そのサイトにはあまりアクセスしないようになりました。ただ、一度だけ何かのきっかけでアクセスしたことがあったんです。そのときもたまたまその女の子の動画がアップされていて……」

 そこにはこうコメントされていた。

『こしいれせよ』

<第2回に続く>

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