深夜の国道にランドセルを背負った女の子が? 少女失踪事件との関連性は/近畿地方のある場所について②
公開日:2024/8/24
『近畿地方のある場所について』(背筋/KADOKAWA)第2回【全19回】
「情報をお持ちの方はご連絡ください。」Web小説サイトカクヨムで連載され話題を集めたホラー小説『近畿地方のある場所について』より、恐怖の始まりとなる冒頭5つのお話をお届けします。オカルト雑誌で編集者をしていた友人の小沢が消息を絶った。失踪前、彼が集めていたのは近畿地方の“ある場所”に関連する怪談や逸話。それらを読み解くうちに、恐ろしい事実が判明する――。あまりにもリアルでゾッとするモキュメンタリー(フィクションドキュメンタリー)ホラーをお楽しみください。
某週刊誌 1989年3月14日号掲載 「実録! 奈良県行方不明少女に新事実か?」
数年ぶりに関西に雪が降ったその日、少女はこつぜんと姿を消した―。
1984年2月、奈良県在住の8歳の少女Kちゃんが学校帰りに行方不明となり、5年が経つ現在も発見に至っていないというこの事件、小誌の愛読者であればピンとくるだろう。編集部では数年にわたりKちゃんの消息をあらゆる観点から調査してきた。失踪当時の不審点の多さなどから、変質者による拉致説から未確認飛行物体による誘拐説まで多くの説を検証してきたが、そのどれもが推測の域を出ないものであった。
この度、編集部の独自取材により新事実が発見されたことを受け、新たな可能性を提唱したい。
小誌読者にとっては周知の事実だろうが、この事件を怪事件たらしめているのは、失踪当時の状況の不自然さにあるだろう。
失踪当日、小学2年生だったKちゃんは同級生のYちゃん、Eちゃんとともに下校していた。Kちゃんの自宅は往来の多い住宅街を、袋小路になった路地に入った先にあり、もう少し住宅街を歩いた先に自宅があるYちゃん、Eちゃんと別れる形で一人、路地に入っていった。その路地に入ってからKちゃんの家までは40mほどしかないにもかかわらず、Kちゃんは玄関のドアを開けることはなかった。
路地にはKちゃん宅の他に4軒の家があるが、そのどれもが家族や高齢夫婦のものであり、本件に関与していたとは考えにくいことが警察の捜査により明らかになっている。つまり、路地の入り口から自宅までのたった数十メートルの間にKちゃんは消えてしまったのである。
Kちゃんの家を含む周囲の家の室内や庭に侵入の痕跡がなかったこと、Kちゃんが失踪した午後4時過ぎは住宅街には人通りが多かったにもかかわらず目撃証言が皆無だったことから、現代の神隠しとしてワイドショーを騒がせた。
身内による犯行と推理した報道合戦に耐えかねたKちゃんの親族が、事件から2か月後に自ら命を絶ったことも本件を印象深いものにしている。
そこから月日が経った現在も捜査に進展がない本件に関して、興味深い情報が集まってきたのだ。
・霊視実験
1988年7月13日21時から22時の間に〇〇系列にて『TVの力~行方不明者捜索スペシャル~』という番組が放送された。いくつかの失踪事件の内容を伝えながら視聴者から生放送で情報を募る内容であり、そのなかには大きく時間を割く形でKちゃんに関するものも含まれていた。
放送内ではKちゃんのパートのみ、事件内容の紹介と視聴者からの情報募集に加え、来日したアメリカの霊能者〇〇〇氏による霊視での居場所特定が行われた。霊視実験にはKちゃんの写真と日本地図、近畿地方の地図を用いた。その際、霊視を終えた氏はうろたえた様子を見せつつもこう話したのだ。
「残念ながらKちゃんは生きてはいないと思う。しかし、霊視対象が死んでいた場合、私には写真の中の人物がかすんで見えるが、Kちゃんはかすんでいない。こんなことは初めてで驚いている。Kちゃんは生きてもいなければ、死んでもいないとしか答えようがない」
また、Kちゃんの居場所をレポーターから尋ねられた氏は近畿地方の●●●●●にある●●●●●一帯を指した。だが、そこはKちゃんの自宅からは遠く離れており、同番組に出演していた母親は、Kちゃんはもちろん家族でも訪れたことがないと話した。
番組では●●●●●については後日スタッフで調査を行うとしつつも、この放送内では有力な手がかりは得られなかったと結論づけられた。この放送以降、調査の続報はない。
・奇妙な体験談
前回の本件の特集掲載号が発売されてから、多くの読者より編集部宛に連絡があった。そのなかで、数名から似たような証言を得ている。まずは長距離トラック運転手のIさんの話を紹介したい。
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仕事柄、夜を通してトラックを運転することが多いんですが、その日も深夜3時ぐらいに●●●●●の辺りを走っていました。
あの辺りって、寂しいところじゃないですか。山とダムの間に国道があって、いくつか家はあるけど、夜になると私らみたいな峠を越えるための大型トラックが通るぐらいで本当に静か。街灯も少ないからハイビームにしないと見通しもきかないくらいでした。
確かそろそろ峠に差しかかるくらいかなってところでした。女の子がいたんです。ランドセル背負ってピンクのセーターを着た。国道の端っこで道に背を向ける格好で立ってました。
これはただごとじゃないなと思ってすぐに幅寄せして降りましたよ。近づいていっても女の子は後ろ、つまり山のほうの林に体を向けたまんまなんです。普通は誰かが近寄ったらこっちに視線を寄越したりすると思うんですけどそんなことも一切なく。
そのとき初めて、ああこれはもしかしてお化けとか幽霊とかなのかもしれないと思い始めました。ただ、そうじゃない場合のことを考えると女の子をこんなところに放っておけるはずもありませんから、近寄って「大丈夫? どうしたの?」って声をかけながら顔をのぞき込みました。
その子、笑ってたんです。満面の笑みっていうんですか? すごい笑顔で目だけ上を向けながら。もう本当に怖くて膝が震えました。でもなんとか「お家は? お名前はなんていうの?」って聞くと、そのまんまの顔で言ったんです。
「Kはね、お嫁さんになったの」
どうすればいいのかわからず「とにかくおじさんと一緒にトラックに乗ろうか」って言ったら、次の瞬間女の子が林の中へ走り出したんです。ええ。もちろん真っ暗な中へですよ。
私、もう怖くて怖くて。あとなんて追えませんでした。警察? もちろん通報しました。一応調書みたいなものは取られましたけど、逆に「運ちゃんお酒飲んでたんじゃないの?」なんて言われて。ただ、妙に対応が淡々としてたというか、慣れてる感じだったのが気になりましたね。
それからしばらく経って、地元の交番でKちゃんの貼り紙を見たんです。名前も服装も全く同じで。こんな変な話、誰に言っても信じてくれないと思ったので、そちらに連絡しました
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このIさんの証言の他にも「友人が●●●●●の辺りでKちゃんらしき子どもを見た」などの話が複数寄せられていた。そのどれもが夜に●●●●●の一帯でKちゃんを見たという点で共通している。ほとんどのケースでは声をかけずに逃げる、もしくは声をかける前にKちゃんのほうから去ってしまっている。
・親族の死
本記事の冒頭でも触れた通り、Kちゃんの失踪から2か月後、親族が自殺している。報道では一部の心無いメディアにより心を病んだ末の自殺とされているが、関係筋から得た情報は、異なるものだった。
報道では親族という表記にとどめられ、Kちゃんの行方不明にまつわる悲劇の一端として触れられる程度であったが、自殺した親族とはKちゃんの父方の叔父にあたるMさんである。
まず、MさんはKちゃん家族とは同居していない。勤務先である奈良県の施工管理会社の独身寮に暮らしており、Kちゃん一家とは数か月に一度の家族付き合いがある程度だ。Kちゃん失踪の3週間ほど前にはKちゃん一家の自宅へ招かれ、夕飯をともにしてはいたが、日頃から特別懇意な間柄でもなかったという。
Mさんに関してもう一点触れておきたい。Mさんの勤務先の施工管理会社はダムの管理を主に手がけており、そのなかには●●●●●にある●●●●●ダムも含まれる。そして、管理技士であるMさんが1月より派遣されていたのがまさに●●●●●ダムだったのである。
Mさんが自殺した際、遺書などは見つからなかったという。
以上を踏まえ、編集部はMさんがKちゃん失踪に何らかの形で関与していると考えている。しかし、その考えを構成するいずれもが証拠に乏しくいまだ推論の域を出ない。引き続き真相解明に向けて調査を続行していく。
<第3回に続く>