第15回「酒村ゆっけ、が死ぬかもしれない夏」/酒飲み独身女劇場 ハッピーエンドはまだ来ない⑮
公開日:2024/8/23
蝉がシャワシャワシャワシャワと泣き叫び、わたしの頭の中の空白を埋め尽くす。
キッチンは、じめじめとしていて、除湿機が瞬く間にタンクいっぱいになってしまう。
さっき、外に出て汗だくになりながら買ってきたパピコを半分こにする。
もちろん分け合う相手はいないので、独占し放題。
ふたを外し、先端に詰まったアイスを食べるのが好きだ。おまけみたいな気がして、最も胸がときめく瞬間。
暑すぎて、アイスが汗をかいて少し溶けている。
一体、夏の魔法はいつになったら解けるのだろうか。
花火大会、お祭り、海、フェス、遊園地。夏っぽいし憧れる。
しかし、暑さと人混みを考えると、とてもじゃないけど、外に出られない日々。
なので、今日も家に引きこもって寝っ転がりながらマンガを読む。
夏はあまりに眩しくて、暑すぎるから、日陰を求めてしまいがちだ。
そんな夏に、最もおすすめしたい一冊『光が死んだ夏』。
田舎の、街灯が少ない夜道の不気味なべったりとした怖さを味わうことができる。
『光が死んだ夏』
村で幼い頃からずっと一緒にいる光とよしき。
とある日、山で行方不明になって死んだと思っていたはずの光が、突然帰ってきた。それは光なんだけど、光の形をした人間ではない何か。
「光はもうおらんのや…それやったら――」。
親友の異変に真っ先に気付いたよしきは、偽者でもいいからと、そばにいることを約束する。
そこから、村では不穏な事件が次々と起こり始める…という物語。
そばにいればいるほど、二人の好きは深まるのに、不幸せに染まっていく関係性に、胸が締め付けられる。
さらに、絵や物語だけではなく、文字に対して怖いという感情を抱くこともあるのかと、気付かされる。
人間ではない何かがそばにいると、人間である自分にも得体のしれない何かが集まりはじめる。
やばいのに取り憑かれている
わたしは、お化けや神様や祟りや呪いを目にしたり体験したりしたことがない。
本当に何かが起こるかもしれないと、心霊スポットなんかに行ったことはあるけれど、何も起こらなかった。
座敷童が出ると言われている村に泊まったとき、ずっと離れの蔵の中のぬいぐるみで無邪気に遊んでいたという記憶のない話は聞いていたが、おそらくそれは酒に取り憑かれていただけだろう。
ところが最近、友人からわたしがやばいかもしれないという連絡が飛んできた。
その友人の結婚式の三次会で、視える方がちょうどいたときの話だそうだ。
30〜40人いる会場の中で、「一番とんでもない霊に取り憑かれているのは誰?」という話題になったときに、指を差されたのがわたしだったそうだ。
どうやら、右肩背後にいる女性の霊が通りすがりの全ての人間の首を絞めているらしい。
どういうこと???
言われてみれば、あの日は、心なしかテキーラが喉を通りにくかった気もする。
というか、人を襲う悪霊なんて、そんなの呪術廻戦でしか見たことがない。
わたしにとって、敵なのか味方なのか。
たしかに最近、疲れやすかったし、無意識にネガティブになっていることが多かった。
二日酔いにもなりやすい。
整体でもこの歳でこんなに硬い人見たことないと言われたし、電気が通らず弾かれると言われたりもした。
人とのコミュニケーションも上手くいかず、帰ってから反省会の日々。
これって、もしかして背後の女性が妨害していたのでは…?
ということは、お祓いさえできればポジティブ社交的人間になれるってコト!?
そのような安易な考えで、急遽、同じく生き霊を背負った仲間たちと、沖縄にお祓いの旅に行くことになった。
レッツ除霊トリップin沖縄
沖縄に着いたら、真っ先にオリオンビールを飲んで、海ぶどうつまんで、ソーキそば食べて、泡盛でハッピーしたいところではあるが、グッと我慢。
仲間たちのひとりが、今回の件に関して連絡をとっている方がいるということなので、真っ先に会いに行くことに。
待ち合わせ場所にいた方は、わたしの母親くらいの年齢で、おっとりとした女性だった。まだ何も自己紹介も説明もしていないにも関わらず、わたしのことをじっと見て、「とても心配だ」と声をかけてくださった。
本当に自分やばいのだろうか…?と不安になる。
こんなことなら、やっぱりオリオンビールを数杯飲んでくればよかった。
なんてことを考えていると、わたしの番が回ってきて、じっくりと見ていただけることに。
ひとまず「わたし、知人にとんでもない悪霊が憑いていると言われたのですが、とんでもないのでしょうか?」と聞いてみる。
女性はわたしの背後を覗き込むように、「うん…そうね…4体の悪霊が見えます。その中の1人は殺人鬼です」と答える。
え??4体??なんか増えてない??しかも殺人鬼??と目をぱちくりしていると、「結構、あなたってこれまで強運じゃありませんか?」と質問された。
言われてみれば、桃太郎電鉄で負けたことはないから、運はいいほうなのかもしれない。
うーんと考えあぐねていると、「あなたの強運な守護霊がぺらっぺらになってしまっています」と衝撃的事実を告げられた。
ちょっと待って!
守護霊いるのはありがたいんだけど、ぺらぺらになることなんてあるの?
よく話を聞いてみると、私を守ってくれていたのは清楚系の美人守護霊らしい。
前世の自分徳積んでくれてありがとう。
ただコピー紙のようにぺらっぺらになってしまって、消失寸前らしい。
ペーパーマリオの仲間入りだ。
薄い壁のすり抜けならお任せください。
…にしても一体何が起きているのだろうか。
「○年前に何か心当たりはありませんか?そこできっと殺人鬼の悪霊が憑いてしまったのだと思います。
一体でも強い霊がそばにいると、自分もいいんだと次々、別の霊も憑くようになってしまうんです。」
○年前…?○年前のあの頃、自分は何をしていただろう。
スマートフォンの中の写真を振り返ると、ひとつ不可解だった事件を思い出した。