SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第38回「夏休みの宿題」

エンタメ

公開日:2024/8/27

 残暑なんて言葉を使える気配がないほどにまだまだ暑い日々が続き、このままずっと暑いままなのではないだろうか、なんてことまで考えてしまう。まだまだ夏真っ盛りの九月の手前に、ふと夏休みの記憶が蘇る。

 世の中には夏休みの宿題をさっさと片付けてしまうタイプの人間と、学校が始まる直前になってあたふたするタイプの人間がいる。まとまった時間がしっかりあるので、バランスよく満遍なくやれば良いと思うのだが、不思議なことにそういう人間には会ったことがない。だからきっと人間には、前記した2タイプしか存在しないと確信している。

 斯くいう私は圧倒的に後者タイプであり、最後の三日間で慌てて記憶を掘り起こして日記を書いたり、強制的にやらされる自由研究の「自由」という言葉に生じる矛盾に、哲学者よろしく首を傾げたりしていたものである。

 やりたくないよなア、こんなもの。と誰もが思うことで心をくさくささせながら、ボイコットするほどの度胸もない自分にため息を吐く。

 ただ、このまま従順でいてなるものか、という些細な反抗心は、私のなかで延々とぐろを巻き続け、結果的に「夏休みの宿題にエンターテインメントを!」というよくわからないところに着地する結果となる。どうせ時間を掛けなければいけないのなら楽しく、そしてスリルを伴うやり方で、というのが小学校三年生の私の結論。

 

 まアそんなこと言ったって小学生が考えることだから高が知れている。妙な結論に至り拳を掲げて立ち上がってはみたが、読書感想文に太刀打ちできず拳を下ろし、自由研究に対抗できずゆっくり座る結果となる。

 ただそんな中、夏休み宿題軍の中に唯一「ドリル」という弱点的存在を見つけた私は再起に至る。ドリルはやり遂げるのにある程度の時間を要するくせに個性を必要としない。誰がやっても同じだし、個人による変化がほとんどない。すなわち宿題をチェックする先生としても集中力を要する必要があまりなく、機械的に赤いペンを走らせる流れ作業となることは間違いない。ならばここにこそエンターテインメントが入り込む余地があるように私は感じたのだった。

 やりたくない気持ちをエンターテインメントに結びつけるにはどうしたらいいかを熟考し、この時間をドリルの問題を解くのに当てればいいのでは? という無粋な考えを滅殺しながら三日三晩過ごした。

 手始めにドリルのページををざっと捲ってみた。その中で目に付くのはやはり手間がかかりそうなページだった。やりたくないなアというシンプルな考えは、やらなければいいという形で帰結することは間違いないのだが、それだけでは単純にサボっただけになる。ではどうすればいいのか。そもそもやるやらないの概念は課題が存在するから生じるのであって、存在さえしなければ、そんな概念は生まれないということになる。そうなのだ、存在しなければいいのだ。

 私は全ての科目のドリルを開き、その中で特にやりたくないページに目星をつけて行動に移った。

あわせて読みたい

しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。

自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中