SUPER BEAVER渋谷龍太のエッセイ連載「吹けば飛ぶよな男だが」/第38回「夏休みの宿題」
公開日:2024/8/27
用意したのはカッターと糊。
まずはカッター。目星をつけた中から、前後に矛盾が生じにくい箇所を抜粋して、しっかりページを開き、背の部分ぎりぎりのところに刃を当てる。強く当てすぎると他のページまで損傷してしまうのでものすごく慎重に。そうやって何ページかを丁寧に切り取った。
次は糊。こちらは主に一番手間がかかりそうな総合問題的なページを狙った。背の部分から小口にかけて丁寧に糊を伸ばしてページをピッタリ合わせてゆく。ちなみに液体のりは紙が波打つためスティック糊を使った。
やり過ぎたら明らかに不自然であるので、施せる箇所に制限はあったが、丁寧に切り取られたページと、寸分のズレもなく糊付けされたページのおかげで、ドリル自体のボリュームはかなり減った。
丁寧に時間をかけて完成させた削減ドリルには言わずもがな愛着が湧き、手を入れなかったページの問題を解いている時間も、不毛だとまでは思わなくなった。
そして夏休み明け、このドリルを提出するときのスリルは、もしかしたらこのエンターテインメントのピークと呼んでもいいのかもしれない。バレたら呼び出されるし、叱られる。しっかり手を掛けた我が子のようなドリルが先生の手に渡るその瞬間はなかなかに生唾モノであった。
このようにして私は、こんなくだらないことを中学の3年生まで続け、一度もバレることなく夏休みの宿題にエンターテインメントを落とし込み続けたのであった。
もし万が一、また自由研究をやらなければならないことになったとして。そうしたら私は、幾つもの夏に用いた実績のある技術とテクニックと総合的な結果を題材にした、偉大なる研究を発表したいと考えている。
なおこの経験はその後の人生に何一つ活かされていない。以上です。
しぶや・りゅうた=1987年5月27日生まれ。
ロックバンド・SUPER BEAVERのボーカル。2009年6月メジャーデビューするものの、2011年に活動の場をメジャーからインディーズへと移し、年間100本以上のライブを実施。2012年に自主レーベルI×L×P× RECORDSを立ち上げたのち、2013年にmurffin discs内のロックレーベル[NOiD]とタッグを組んでの活動をスタート。2018年4月には初の東京・日本武道館ワンマンライブを開催。結成15周年を迎えた2020年、Sony Music Recordsと約10年ぶりにメジャー再契約。「名前を呼ぶよ」が、人気コミックス原作の映画『東京リベンジャーズ』の主題歌に起用される。現在もライブハウス、ホール、アリーナ、フェスなど年間100本近いライブを行い、2022年10月から12月に自身最大規模となる4都市8公演のアリーナツアーも全公演ソールドアウト、約75,000人を動員した。さらに前作に続き、2023年4月21日公開の映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』に、新曲「グラデーション」が、6月30日公開の『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -決戦-』の主題歌に新曲「儚くない」が決定。同年7月に、自身最大キャパシティとなる富士急ハイランド・コニファーフォレストにてワンマンライブを2日間開催。9月からは「SUPER BEAVER 都会のラクダ TOUR 2023-2024 ~ 駱駝革命21 ~」をスタートさせ、2024年の同ツアーでは約6年ぶりとなる日本武道館公演を3日間発表し、4都市9公演のアリーナ公演を実施。さらに2024年6月2日の東京・日比谷野外音楽堂を皮切りに、大阪、山梨、香川、北海道、長崎を巡る初の野外ツアー「都会のラクダ 野外TOUR 2024 〜ビルシロコ・モリヤマ〜」(追加公演<ウミ>、<モリ>)開催。現在「都会のラクダ TOUR 2024 〜 セイハッ!ツーツーウラウラ 〜」を開催中。
自身のバンドの軌跡を描いた小説「都会のラクダ」、この連載を書籍化したエッセイ集「吹けば飛ぶよな男だが」が発売中