清々しいまでの赤裸々感…結婚・出産に悩む20代四人組が見出す「一生最強」の選択肢、新しい家族の物語『たぶん私たち一生最強』
公開日:2024/8/30
あえて砕けた言葉で言わせてほしい。わかりみが深すぎて何度も心を撃ち抜かれ、「ああ、もう最高かよ」と思ったのである。痛快にもほどがある。最強の女たちの暮らしに猛烈に共感し、そして、憧れを感じずにはいられなかった。
そう思わされた小説が『たぶん私たち一生最強』(小林早代子/新潮社)。R-18文学賞出身の新鋭が紡ぐ自由と決断の物語だ。R-18文学賞出身者といえば、本屋大賞2024を受賞した『成瀬は天下を取りにいく』(新潮社)の宮島未奈さんの存在が記憶に新しい。『たぶん私たち一生最強』を読み終えた後感じたのは、R-18文学賞とはなんと恐ろしい賞なのかということ。圧倒的才能に脱帽。この作品もまた大きな話題を呼ぶに違いないという確信が胸に満ちた。
「もうさー女友達と一生暮らしたいんだよね最近は!」
「どうせどの男ともいずれはセックスなんかしなくなって友達みたいになるんだよ、だったら長年培った友情のもと女の子と家族になった方が良くない?」
十年付き合っていた恋人と別れてから半年、未だに気が動転し続けている花乃子は、ある土曜日の夜、ハイボール(濃いめ)のジョッキを叩きつけるようにおきながら言う。花乃子、百合子、澪、亜希は高校時代からの女友達4人組。東京在住26歳の大卒の彼女たちには選択肢がありすぎて心許ないほど自由だ。特に会社を辞め、漫画家として暮らす花乃子は将来が不安。最初花乃子の発言は冗談として扱われていたが、次第にそれは現実味を帯び、彼女たちは実際に四人で暮らし始める。
正直、私はこの本を読み始める前、「この本は私向きではないかもしれないな」と思っていた。というのも「女友達4人でルームシェアをする」というあらすじを知った時、私は「そんなウェットな関係性を築いたことがない」と思ったのだ。私にだって気心知れた女友達はいるが、いつも彼女たちとはノリの良さが最優先。深刻な話はしたことがないし、ベタベタするのは鬱陶しい。だから「この物語の女たちは一生一緒に暮らそうとしているくらいなのだから、相当暑苦しい人間関係を築いているに違いない」と勝手に想像して、「何だか合わなそう」と思ってしまったのだ。第一、女友達と一生暮らすのは絶対楽しいだろうが、私は恋愛より友情が大切だとは思えない。ましてや26歳といえば、結婚が気になる時期。この物語の女たちは、結婚も出産も気にならないのだろうか。——いや、私がめぐらせた想像はすべて的外れだった。この本の女たちは、結婚や出産、今後の人生にそれぞれ悩んでいる。だけれども、友達同士、自分の悩みを簡単には明かさない。たとえば、自分の失恋を茶化して笑う花乃子を、他のメンバーは内心では傷ついているのだろうと漠然と感じつつも、花乃子が元恋人との交際中にセックスレスに悩んでいたことも、そのさなかに浮気されたことも知らないし、その事実に今もなお苦しみ続けているなんてことも知らない。ノリとニュアンスでバカな話ばかりを続けて、切実なことはシェアしない。それに、一生暮らすなら女友達のほうがいいとは思っているが、恋愛対象としての男も必要だし、大好きだ。そんな彼女たちが最弱の夜、最高の決断として「四人で一生一緒にいる」ことを思いつき、家族になろうとするのだ。
「ひとまずスマブラで勝った人がどの男に精子もらうか決められることにしよう」
男からしたらかなりダメージを受けそうだが、女の私からすれば、彼女たちの口の悪い怒涛のガールズトークの心地良さと言ったらない。友情、恋愛、病、セックス、出産……。描かれる世界の清々しいまでの赤裸々感にギョッとさせられながらも、幾度となく頷かされる。それにこの物語の女たちは、ごくたまに言い争いはするが、互いを気遣いあって、長引く喧嘩は一切しない。ましてやマウントなんて取り合わないから、見ていて気持ちが良くて、だからこそ、仲間に加わりたくなる。読み始める前に感じていた不安はどこへやら。「ああ、この本が好きだ」と無我夢中でページをめくった。
当然、女4人のシェアハウスには辛辣な声も少なくない。「婚期逃しそう」「子供は諦めたの?」なんて声に対し、四人だって傷つかない訳がない。だが、悩みながらも彼女たちはそんな声を瞬く間に蹴散らしていく。……そうか、世の中に「こうあるべき」なんて正解はないのだ。フツーとは違う道を選ぶのは怖い。だけれども、「みんながしているから」という常識で「なんとなく」自分の人生を決めていくことほど息苦しいことはないだろう。自分たちにとっての居心地のいい場所を自分たちで作っていく彼女たちはやはり最強だ。「結婚にも出産にも興味がない訳ではないけれど、それで本当に幸せになれるのかな」と一度でも疑問に感じたことがある人は、きっとこの本が刺さる。新しい家族の形を教えてくれるこの本は、あなたの心にも新しい風を吹かせてくれるに違いないだろう。
文=アサトーミナミ