30万部突破の『レモンと殺人鬼』の著者新作小説! サイコパスばかりが登場する予測不能の戦慄サイコサスペンスに、あなたの理性が試される?
PR 公開日:2024/9/5
信じていたものに痛烈に裏切られた。「やられた」と思った。いや、でも、冷静に考えてみると、自分が勝手に勘違いしていただけかもしれない。確かなのは、本作を読むと、何を信じていいのか、自分が見ているものは正しいのかが分からなくなってしまうということ。底なし沼に入りこんだような不安感、足元のおぼつかなさを感じさせる小説——それが『復讐の泥沼』(くわがきあゆ/宝島社)だ。
くわがきあゆ氏は、30万部を突破し第21回『このミステリーがすごい!』大賞・文庫グランプリ受賞作『レモンと殺人鬼』(宝島社)の著者。『レモンと殺人鬼』は、読む者に強い衝撃を与える戦慄のサイコミステリーだが本作も同様。いや、その衝撃は『レモンと殺人鬼』以上ではないだろうか。この作品は、読む者をとことん困惑させる。この作品を読むと、自分が正気を保てているのか、どんどん自信がなくなってしまうのである。
古民家カフェの崩壊事故で、一緒にいた盛岡颯一を亡くした日羽光が主人公。事故発生直後、土埃の中で「助けが必要な人はいませんか」と問う医療従事者と見られるふたりの男の姿が見えたが、彼らは颯一を一瞥すると、すぐにいなくなってしまった。どうして彼らは颯一を見捨てたのか。光は彼らを問いたださずにはいられなかった。そこで光は、男たちの正体を探ろうと独自に調査を始める。そして、どうにかその内のひとりを見つけたのだが、その男に話しかけようとした瞬間、彼は突如として何者かに銃殺されてしまう。一体何が起きたのか。光はもうひとりの男を探すしかないと決意する。一方、もうひとりの男・薬師も光の行方を探していて……。
大切な人を見殺しにされたとしたら許せないのは当然のことだ。「大切な人をこんな形で喪ったとしたら、彼女のようになるかもしれないな」と、光に同情するのは私だけではないはずだ。だが、読み進めるほど少しずつ違和感が募っていく。そして視点が薬師側に移ると、それは顕著になる。
そう、この物語には、サイコパスばかりが登場するのだ。彼らの抱えるひとつひとつの背景に感情移入させられながら読み進めていくと、次第に彼らのぶっ飛んだ行動原理に直面し、呆気に取られる。「どうしてそんな危険な思考になるの!?」と度肝を抜かれる。と同時に不安に思う。「私の感覚は正常なのだろうか」「どこかで狂ってしまったのではないか」と。
ミスリードに次ぐミスリード。サイコパスの思考回路は全く読めない。だからこそこの物語はどこに向かうのか、どこに行き着くのかも分からない。後味は最悪。最後まで読んでも全くスッキリせず、思わず苦笑してしまう。だが、だからこそいい。自分の感覚に自信をなくすような、こんな刺激的な読書体験はなかなかない。
あなたもサイコパスばかりが出てくる恐ろしい世界を覗き込んでみてはいかがだろうか。そして光という女性の純真な愛の果てに何があるのかをぜひ見届けてほしい。
文=アサトーミナミ