チャンネル登録者数49万人超の動画クリエイター・五分目悟による初エッセイ! 独自の世界観を文章表現するうえでこだわったポイントとは?【著者インタビュー】

文芸・カルチャー

公開日:2024/8/30

 YouTubeでオリジナルのCGキャラクターたちによる群像劇を発信している動画クリエイター、五分目悟さん。シュールで独創的なストーリーに中毒者が急増し、チャンネル登録者数は49万人(2024年8月現在)を超える人気を誇っている。そんな彼が感じる日常の違和感をオール書き下ろしで綴るエッセイ『真ん中のひじ掛けの妖精』(五分目悟/KADOKAWA)が8月6日に発売された。前書きから遺憾なく発揮される圧倒的かつ繊細な筆致は、すでに多くの読者の唸らせるのと同時に共感も呼んでいる。そんな彼が初エッセイに込めた思いやこだわりを聞いた。

真ん中のひじ掛けの妖精
真ん中のひじ掛けの妖精
(五分目悟/KADOKAWA)

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――エッセイ出版のきっかけについて教えてください。

五分目悟さん(以下、五分目):経緯はシンプルです。KADOKAWAの編集者さんから「本を出しませんか?」と声をかけていただいたからです。

――うまく文章が書けるかなどといった、不安や葛藤はありましたか?

五分目:全くなかったですね。動画を作っている時も毎回脚本を書いているので、そんなに文章を書くことに抵抗はありませんでした。その上、子どもの頃から文章を書くのは得意だったんです。不思議なことに、小学校から高校まで、いつもめちゃくちゃ国語の先生に好かれていて。「読んだら絶対お前の文章だってわかる」と言われ続けていました。国語の先生が担任だった場合が厄介でして、気に入られた分、「生徒会に入れ」とか言われて大変でしたね。中学時代には弁論大会で優勝しましたし、高校時代は他校に通っている友だちに頼まれて読書感想文を書いて、対価をもらっていたこともありましたね。

 今、思えば、文章が得意というよりは、文章に関しては強気なんだと思います。「別に読み手に理解してもらわなくてもいい」といったスタンスなので、スピード感を持って書くことができるんだと思います。そういう意味では、制作を初めてから1~2年しか経っていない、技術面で満足のいかない動画よりも、文章の方が僕自身の中身をダイレクトに表現できているかもしれません。

――今回発売のエッセイで、こだわられたことはどんなところですか?

五分目:ルビを振らない、ということです。担当編集さんはユーザビリティも重視するタイプなのですが、僕は読者に自由に想像を膨らませてほしい、と思うタイプなんです。そして、なによりもルビを振ることで、漢字の読み方を限定したくない。漢字って、いろいろな読み方ができるじゃないですか。たとえば、「他人事」という言葉も、「ひとごと」以外にも「たにんごと」とも読めますよね。そんな風に思うがまま自由に読んでいただきたいんです。でもルビを振ることで、読み方の選択肢が一つになってしまうのが嫌なんです。もしその漢字が読めなかったとしても、漢字の印象から意味を連想するだけでもいいと思っています。

――動画制作とエッセイ執筆、どちらの方が大変だと感じましたか?

五分目:どちらも楽ではありませんが、大変なのは完全に執筆です。なぜ大変かと申し上げますと、人が間に入るからですね。動画制作も大変ですが、脚本から登場キャラクターの選定と声の演技、演出に音楽と全部自分ひとりで完結できるんです。でも、本の出版では、編集さんや校正さんとのやり取りが発生するんですよね。先ほども申し上げたように、僕はルビで漢字の読み方を制限するよりも、読者の方にどんどんどんどん膨らませてほしいと思っています。たとえば「体(からだ)」という言葉がありますが、「身体」と表記する時と漢字一文字で「体」と表記する場合がありますよね。僕にとっては、読み方が同じでも、ニュアンスが全く違うので、完全に別の言葉なんですよ。「身体」の方はちょっと物質よりですよね。心を伴っていない肉的なニュアンスなのですが、一方の「体」になるとちょっと心が入ってくる感じがするんですよ。なので、僕はその都度、使い分けていたのですが、「表記の統一」という観点から、全部「体」に統一したいという指摘が入って「もう全然違う話になってしまいますが!」と思った、というエピソードがあります。こうした点でも、執筆という活動の難しさを痛感しました。

――表題の「真ん中のひじ掛けの妖精」をはじめ、人気動画のエピソードがエッセイでも読むことができますね。

五分目:動画の場合は、テンポ感を重視して端折るとか盛るとか、短い時間で伝えるために違う要素を入れることもあります。でも、文章だと事細かに書けますし、心情も説明できるのがいいなと思います。動画とエッセイで、どんな風に表現が異なるのかを確かめていただければ嬉しいですね。

――どれくらいの速度で執筆されたのでしょうか。

五分目:1日1本のペースでしたので、35日ですね。できあがった文章は寝かせることなく、すぐに編集さんへ送っていました。

――動画制作からはじまり、TVドラマの監督、そしてエッセイ出版と、活躍の場を広げていますが、今後の野望はなんですか?

五分目:やりたいことは本当にたくさんあります。アイドルをプロデュースして作詞をしてみたいですし、本業の声優さんに動画に参加していただいたり、絵本や童話集を出版したりしてみたいとか、いろいろあります。できればダ・ヴィンチさんで、エッセイを連載させていただけると嬉しいのですが……!

――最後に、これから『真ん中のひじ掛けの妖精』をお読みになる方々へメッセージをお願いします。

五分目:この本を読んだ人と読んでない人では、明らかに人生の深みが違うと思いますので、読んだ方は鼻高々に堂々と人生を歩み、また読んでない方は、何を間違ったのか反省しつつ、本を手にとっていただければ幸いです。……というのは冗談ですが(笑)、今までの自分の創作物の中で、一番本気を出した作品だと思いますので、その点でもぜひ見ていただければなと思います。中学の弁論大会で優勝した人間の本気を、どうぞご覧くださいませ!

五分目悟

取材・文=中村実香

五分目悟
ごぶんめさとる●動画クリエイター。YouTubeにて、オリジナルのCGキャラクターたちによる群像劇を発信。シュールで独創的なストーリーに中毒者が急増し、チャンネル登録者数は49万人(2024年8月現在)を超える。動画の脚本から演出、声の出演、編集、作中歌に至るまですべて一人で制作しており、現在最も注目を集めるクリエイターの一人。

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