ギャルと陰キャの探偵コンビが、令和な事件をいざ解決。『犯人クン、何してんの?-探偵・鬼灯アロの事件簿-』
PR 更新日:2024/9/17
どんな人とも対等に接し、フランクな態度で距離を詰める。その場の空気に流されることなく自分を貫き、常に友達を思う――。こういった「ギャルマインド」は、実は探偵向きかもしれない。『犯人クン、何してんの?-探偵・鬼灯アロの事件簿-』(稲岡和佐/白泉社)を読んでみて、確信した。そう、ギャルこそが令和の名探偵に相応しいのだ。
本作の主人公は17歳の男子高校生・赤岩五月(あかいわ・ごがつ)。大のミステリ好きを公言し、これまでに読破したミステリ小説はなんと2551冊!好きが高じるあまり、もはや名探偵だと自負すらしている。 ……なかなかアクの強いキャラだ。
そしてもうひとりの主人公が、ギャルの鬼灯アロ(ほおずき・あろ)。初対面の人とも臆することなくコミュニケーションが取れ、すぐに友達になってしまう。一般人ながらSNSのフォロワーは30万人以上という人気者ぶり。相手が大御所作家だろうが警察関係者だろうがお構いなしに、自分のペースに巻き込んでしまう、「コミュ力お化け」だ。
そんなふたりは同じコンビニのバイト仲間なのだが、ひょんなことから事件に巻き込まれ、やがては「アロ岩探偵事務所」としてSNSアカウントも開設し、世間に高校生探偵として認知されていくことになる。本作はそんなアロ岩探偵事務所のふたりがさまざまな難事件を解決していく、コメディミステリだ。
ミステリ作家の毒殺、女子高生が巻き込まれた通り魔殺人、離島を舞台にした恋愛リアリティーショーの撮影中に発生した殺人に、ダンス動画で流れる楽曲の歌詞に見立てられた殺人と、発生する事件の規模やシチュエーションは実にさまざま。しかしながら共通するのは、「プリクラの書き文字」「盛れる写真アプリ」「SNSでの切り抜き文化」「ナイトルーティン」など、現代的な要素が事件解決の糸口になっている点だ。それに気付くのはもちろんアロ。ギャルならではの視点を活かしながら真相に迫っていくさまが頼もしく、そして読んでいて楽しい。
1巻、2巻と巻数を重ねるごとに赤岩とアロは名コンビになっていくが、最新の3巻では赤岩に対するアロの気持ちが垣間見えるエピソードが描かれている。「モテる男セミナー」という怪しげな集まりに、まさかの赤岩が取り込まれ、洗脳されてしまうのだ。彼を救うべくセミナーに潜入したアロは、そこでも抜群のコミュ力を発揮。他の参加者たちを懐柔しながらも、赤岩の目を覚ますことに成功する。その際、アロが本心を打ち明けるのだが、そこで安易な恋愛至上主義的な展開にならないところも良い。男女のバディものというと、どうしても恋愛感情が絡みがちだが、そういう意味でも本作は実に現代的な物語展開を見せる(今のところは)。
ちなみに3巻のキーワードは、「SNSのロマンス詐欺」「推し活」「YouTuber」と、これまた身近な要素ばかり。それらがどんな風に事件に昇華されていくのか、ミステリ好きも唸らせられるはずだ。
文=イガラシダイ