路上生活者に暴行を働き、家庭裁判所にやってきた少年。「付添人」がたどり着いた驚きの「新事実」とは

文芸・カルチャー

PR 公開日:2024/9/4

付き添うひと ―子ども担当弁護士・朧太一"
付き添うひと ―子ども担当弁護士・朧太一』(岩井圭也/ポプラ社)

 まもなくクライマックスを迎えるNHKの朝ドラ『虎に翼』。主人公が家庭裁判所に勤めていたため、ドラマをきっかけに判事と調査官が密室で被疑者の少年に向き合う家裁の現場を見知ったという方もいるだろう。ところで、あのドラマが描く時代には存在していないが、現在は被疑者の少年の味方になる「付添人」の関与が公的に認められているのをご存じだろうか。付添人とは少年審判の手続きや処遇が適正に行われるよう裁判所に協力する役割を果たす、大人の場合でいう「弁護人」のこと。主に弁護士が担当することになる(2000年の少年法改正で「国選付添人制度」として誕生)。

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 具体的には「付添人」とはどのような仕事を担うのか――それを知るには、注目の作家・岩井圭也さんのヒューマンドラマ『付き添うひと ―子ども担当弁護士・朧太一』(岩井圭也/ポプラ社)をオススメしたい。岩井さんといえば、2018年に『永遠についての証明』(KADOKAWA)でデビュー以来、ミステリーや社会派エンタメなど多様な作品を続々と発表し、『われは熊楠』(文藝春秋)では2024年上半期の直木賞候補にもなるなど、その実力には定評のある若手作家。その岩井さんが描く「付添人」の活躍は、子どもたちを取り巻く不可侵の「家庭」の暗部に鋭く切り込み、胸を、目頭を、熱くさせる。いよいよ文庫化という今こそ、読んでおきたい一冊だ。

 物語は5話からなる連作短編集だ。第1話「どうせあいつがやった」は、河川敷に住む路上生活者に暴行を働いた容疑で逮捕された少年・蓮をめぐる物語。重大事件は家裁から刑事裁判に逆送されるが、蓮の場合もその措置が濃厚と考えられていた。だが面談で蓮と対峙した付添人の朧太一(オボロ)は、「ぼくは味方だ」と伝えた瞬間の蓮の視線の揺らぎを見逃さなかった。

 彼はまだ本当のことを話していないのではないか…わずかな可能性を感じたオボロが丹念に調査を続けると、驚きの新事実が明らかになっていく。続く物語でも親のDVから逃げ出す少女、ネットに罵詈雑言を撒き散らす引きこもりの少年、家出を繰り返す非行少女――さまざまに問題を抱えた子どもたちと真っ直ぐに対峙していくオボロ。いずれも彼らは簡単には心を開かない。というより、声を上げる方法すらわからない。だが、オボロの丹念な語りかけによってじわじわ心の壁は決壊し、ついには胸に押し込めてきた自らの叫びによって覚醒していくことになる――。

 主人公のオボロは、少年たちに手を差し伸べたいばかりに自分の身なりや健康への気遣いには頭が回らない熱血タイプだ。なぜ彼はそこまで入れ込むのか――実はそれこそが物語のフックであり、そこには彼自身の過去の「傷」が大きな影を落としている。捨て身のオボロはまるで自らの過去と闘うかのよう。そして少年たちに寄り添うことで、自分自身の「人生」をも模索していくような姿も強く心に残る。

 忘れたくないのは、「この子はダメな子」「子どもは親の所有物」「子どもに意志なんてない」「子どもに人生を決められるはずがない」――そんな「親」たちの勝手な言い分に翻弄され、多くの子どもたちがじわじわと心の逃げ場を失っていったということ。悪いのは決して子どもたちではなく、周囲が無自覚に彼らを追い込んだ結果であったということ。決して他人事ではないそうした事実を重く胸に刻みながら、新たな一歩を踏み出す子どもたち、そしてオボロにエールを送りたい。

文=荒井理恵

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