中村明日美子氏の流麗な絵柄のひとつひとつが、このうえなく美しい――寄宿学校を舞台に繰り広げられる少女たちの青春群像『メジロバナの咲く』
PR 公開日:2024/9/3
鳥山明氏然り、岩明均氏然り、その人にしか描けない絵柄というのは、マンガ家にとっては最高の宝物だ。
それは必ずしもきれいな絵や、巧い絵というわけではない。その作家の作風やストーリーと完全に合致して、絵柄そのものが作家性ともなっている、その人だけの武器。BL作品を多く手がけ、現在はさまざまなジャンルで活躍している中村明日美子氏も、そんな宝物をもつマンガ家のひとりだ。
この文章の横または上に掲載されている本書の表紙を見てみてほしい。すっと引かれた細く流麗な線はどこまでも美しく、あやうい色気を醸している。ひと目見たら忘れられない。
『メジロバナの咲く』(白泉社)は海外(察するに現在よりも少し前の時代のアメリカか?)の名門女子寄宿学校を舞台にした、少女たちの青春群像だ。中心となるのは、元気いっぱいで直情型の2年生ルビーと、ミステリアスかつクールビューティーな3年生のステフ。
クリスマス休暇に実家へ帰省せず、ステフと2人きりで学園内で過ごしたのをきっかけに、ルビーは彼女を意識しはじめるようになる。左脚が鋼の義足という噂から“鋼のステフ”なる異名をもつステフは、そのさえざえとした雰囲気もあいまって下級生から憧れの目で見られている。
「私 あなたのこと好きだわ」
思わずそう口にしてしまったことで、ルビーは彼女に対する自分の気持ちに戸惑う。
この感情は何なのか。友人たちを好きなようにステフが好きなのではないらしいことは分かる。では恋か? そこに女子校あるあるの、素敵な先輩への憧れというものも混ざっているのか? さりとて友情が少しもないのかといえば、そうでもない。本当は優しいのに、他人を寄せつけないよう振るまっている“鋼のステフ”のなかに秘められた脆さ、傷つきやすさを敏感に感じとり、案じてもいる。
そんな、恋とも憧れとも友情とも、いたわりともつかない感情を出発点に、ルビーとステフの関係は少しずつ深まってゆく。
2巻では、両親の離婚による学費の負担を軽くすべく、奨学金試験に向けて猛勉強するルビーにステフは協力する。3巻では、学園内で不可思議な窃盗事件が発生。ルビーは自分でも知らぬ間に巻き込まれ、一方ステフは探偵役を務めることに。
そして最新の第4巻では、3巻から続くミステリ編が解決し、夏のバカンス編がはじまる。イタリアの避暑地アマルフィへやってきたルビーは、ステフとその妹にして恋仇(?)のリズと遭遇。学園の外だからこその解放感も手伝い、楽しい夏を過ごせそうだと思った矢先、ステフの過去を知る青年があらわれる。
実はステフは異国からの亡命者で、左脚が義足というのは単なる噂ではなく、亡命してくる際に大怪我を負ったからという壮絶な背景があった。
GL(ガールズラブ)の世界に、なにやら波乱を投げかけそうなその青年、ピシュティとステフの関係は一体どのようなものなのか? そして肝心のルビーとステフの関係はこの夏、一歩でも前進するのか否か? たおやかにて艶やか、それでいてちょっぴりコミカルな著者ならではの世界観がのびやかに展開している。GLを好む方はもちろん、初めてという方にも自信をもっておススメできる麗しい作品だ。
文=皆川ちか